【ACL】「結果論」での決めつけは認めない! ~「広島ACL軽視説」を否定してみた~
0.まえがき
サンフレッチェ広島の今シーズンのACL敗退が決定して、3日が経ちました。
試合終了直後からしばらくは沈みがちだった私の心境も、前回、記事を1つアップしたことで、かなり整理が付きました。
しかしながら、この3日間、私の中には、どうにも釈然としない思いがずっと充満していました。
前回も書いたように、私が書きたかったことは、山東魯能が強かったことだけではないのです。
今回は、私が最も書きたかったことを、書くことにします。
これから書くことは、実は、3日前の試合に限定した話ではありません。
そして、あくまでも私個人の意見であり、決して「私は正しい」と主張するつもりは無いことを、あらかじめ明記しておきます。
なお、この記事は故あって、共通ジャンルを「ACL」ではなく「J1・ナビスコ」の方にしました。
1.私がこの記事で最も主張したいこと
私はこの記事で、「サンフレッチェ広島がACLを軽視している」という意見を、全面的に否定したいと思います。
2.「結果」への批判は妨げない
最初に申し上げておきたいのは、私は、今回の「結果」に対する批判についてはむしろ肯定的である、ということです。
「広島がグループリーグで敗退した」という事実は曲げられません。
プロスポーツの世界ですから、結果を残せるか否か、というのは最大の命題です。
従って、結果を残せなかったことに対して、命題を成し遂げられなかったことに対して、広島が否定的な評価を受けるのは当然です。
もちろん、一定のモラルを超えるような発言(スポナビブログで削除されるレベル)にまで共感はしませんが。
厳しい批判は、期待の裏返しだと思います。
ACLを勝ち抜いてアジアに覇を唱えてほしい、という願いが、敗退という結果で裏切られたのですからね。
その意味では、私もガッカリしています。
特に初戦などは、勝機は目の前にあったのです。多くの決定機をもっとモノにできていたら、グループリーグをもっと楽に戦えたはずでした。
その他諸々を含め、敗退という結果に対する批判を妨げる理由は、私にはありません。
監督も選手も、その批判は甘んじて受けるしかないでしょう。
3.「ACL軽視」は結果論である
さて、ここからこの記事の本論に入っていくわけですが、そもそもなぜ、「広島はACLを軽視している」とか「やる気がない」とかいう批判が起きるのでしょうか。
私の考えでは、その理由はただひとつです。
「サンフレッチェが負けてしまったから。」
このひと言に尽きると思います。
3日前の試合で考えてみましょう。
あの試合、J1リーグで出場経験のない高橋壮也が先発起用されたことが、ACL軽視論の根拠のひとつになっていますが、もし、壮也が大活躍して広島が勝利できていたら、試合後の論調はどうなっていたでしょうか?
「もしもボックス」でも使った気分になって想像してみてください。
(因みに、高橋は昨年、ナビスコ杯やU22選抜での出場経験はあります。)
私が思うに、きっと、ほとんど誰もが、彼の活躍を絶賛し、監督の起用を絶賛したことでしょう。
新聞にも「監督の抜擢、ズバリ的中!」なんて見出しが躍ってね。
そして、「広島はやる気がない」などと言う人など、ほとんど現れなかったのではないでしょうか。
牽強付会に過ぎる、と言われるかもしれませんが、私はあながち誤った想像ではないと思います。
引き合いに出して悪いのですが、浦和レッズが「死の組」と言われたグループリーグを突破し、称賛の声を集めていますが、これがもし敗退という結果に終わっていたら、おそらく批判の嵐だったでしょう。「ミシャは持ってない」とか何とか。
負ければ言われ、勝てば言われない、というのであれば、それは「結果論」というものです。
明確な論拠がある場合は別ですが、この件に関して、そのような話はほとんど目にしていません。
要するに、「広島ACL軽視論」のほとんどは、結果論で語られているに過ぎないのです。
4.クラブの意志は明確に示されていた
では、私が「サンフレッチェ広島はACLを軽視していない」と考える論拠は何でしょうか?
そのいくつかを論じてみようと思います。
まず、サンフレッチェ広島の、クラブとしての「姿勢」について。
2016年1月11日、成人の日。サンフレッチェ広島の第14回サポーターズ・カンファレンスが開催されました。
その議事録が、公式サイトに公開されていて、誰でも、その内容を読むことができるようになっています。
その議場で、サンフレッチェ広島の首脳陣が語った言葉から、少しピックアップしてみます。
「長距離移動など、大変厳しい環境下でのACLでの闘いとなりますが、JリーグとACLどちらかを優先するのではなく、今シーズンは両方の大会において一戦一戦を大事に戦って勝点を積み重ねることで、さらなる高みを目指します。
森保監督は平素からそう申しておりますが、クラブとしてもそれをバックアップしていきたいと思います。勝点を積み重ねた上で『獲れるタイトルは全部獲りに行く』覚悟です。」
「皆さまがメンバー編成を見たときに『あれ? なんでこの選手が試合に出ていないの?』という思いを持つことがあるかもしれませんが、昨年末のクラブワールドカップでも、森保監督は常にその試合でベストを尽くせる選手を選んで編成しております。
目前の試合だけではなく、次の試合も見越したメンバー編成となりますので、戦力を落としたメンバー編成ではないということはお約束します。」
(以上、織田社長。)
「森保監督も選手たちも、Jリーグ優勝、クラブワールドカップ3位は、昨年の出来事だと自覚しています。その結果を持って、来季もJ1で戦えるという保証はまったくありません。昨年のことは終わった話。我々は前を向いて、一歩ずつ目標に向かっていきます。」
「目の前の試合を100%戦う、勝点3を取りに行く、その結果がJ1残留、優勝争い、さらにチャンピオンシップにつながっていくと思っています。
もちろんACLも同じです。
連戦を含めて難しい相手が非常に多く、アウェイの洗礼を受けることもあると思います。その中でどんな状況でも目の前の勝点3、アウェイであれば勝点1を、石にかじりついてでも勝点を取って帰るのが森保サッカーであり、今のサンフレッチェ広島です。
どのメンバーでもどんな状況でも同じサッカーをして、共通理解の下で一歩ずつ前に進もうと思っています。」
(以上、足立強化部長。)
サポカンでの発言は重いです。
サポーターの前で、サンフレッチェ広島は「JリーグとACLを両方狙う」という目標を公言したのです。
Jリーグ「だけ」に力を注ぐのではなく、ACL「だけ」に集中するのではなく、あくまでも、JリーグとACLを両方勝つつもりで戦う、という宣言です。
サポーターに向けた発言なのですから、生半可な気持ちで発せられた言葉であろうはずがありません。
ここを否定してしまっては、話が全く成り立たなくなってしまいます。
だから、これらの発言は間違いなく「本気」の発言です。
ACLをクラブが軽視していたら、この発言は絶対に起こりません。
なぜなら、サポーターに話している言葉なのですから。
クラブは公式に、ACLに向かう意志を示しています。
これが、私のいわゆる論拠のひとつです。
5.森保監督にとっては全員が「戦力」である
先程のカンファレンスで、織田社長が森保監督の選手編成について語っておられますが、ポイチさんがもしこれを読んでいたら、さぞや、監督冥利に尽きる、と喜んだことでしょう。
監督はクラブに雇われている身なので、いわば社長と従業員、という関係です。
社長が従業員の仕事ぶりを実に誤りなく理解している、という職場を、うらやましいと思う勤め人の方は多いのではないでしょうか。
閑話休題。
どのクラブもそうでしょうが、限られた戦力の中で、厳しい日程を消化しながら、JリーグとACLという2つの(性質の違う)厳しいリーグを勝ち抜くのは、部外者が想像する以上に大変なことだと思います。
方法論はいくつかあるでしょうが、森保監督が採ったのは「ターンオーバー」という手法でした。
なぜポイチさんがその選択をしたのか。
それを紐解くには、彼の「2チーム分の戦力がある」という発言から見ていくのが良さそうです。
私は見に行ったことはありませんが、サンフレッチェの練習は、サッカー関係者からの評価がすこぶる高いと言われています。
あの都並さんが、練習を訪れたときに「めちゃくちゃクオリティの高い練習をしていて驚いた」と、CWCの中継中に絶賛したほどです。
そんなハイレベルの練習の中で、レギュラー組とサブ組に分かれて紅白戦を行うと、しばしば、サブ組の方が勝ってしまうそうなのです。
森保監督の著書「プロサッカー監督の仕事」に、このようなことが書かれています。
「試合前日の練習はリラックスして本番に向けた調整に重きを置くチームが多いと思いますが、サンフレッチェでは普通に練習をしています。(中略)選手たちには、最後まで自分が試合に出るためのアピールの場を与えています。それがチーム全体の実力アップにつながると考えているからです。」
極端な言い方ですが、サンフレッチェでは、レギュラーは固定されていません。
練習で力を発揮し、アピールできた者だけが、次の試合への出場を許されるのです。
事実上、外せないメンバーは何人かいますが、それは彼らがいつもその競争を勝ち抜いたから出場できている、というだけの話なのです。
そんな競争の中から、浅野や茶島、宮原などがチャンスをつかみ、主力として数えられる存在に成長してきました。
山東魯能戦で高橋を起用したことも、例外ではありません。それは、試合後の監督インタビューで明らかになっています。
曰く、「練習や直近の練習試合で非常にいい動きをしていた。もちろん、柏好文という選択肢もあったが、今日は勝たなければいけない試合の中で、まず高橋壮也で相手をかき回して、走ってもらうために先発で起用した。(サンフレッチェ広島公式サイトより)」と。
ただ経験を積ませる目的で、試合に使ったわけではないのです。
練習でのアピールと、戦術的な意味、少なくとも2つの明確な理由があったのです。
いつも練習ですべての選手の一挙手一投足を見つめている監督にとって、すべての選手が「戦力」として目に映っているのです。
彼は、監督の目で「使える」と思った選手を使っているだけです。
基準も明確です。ただ単に名前だけで選んでいるわけではありません。
だから、外野から「なぜアイツを使うのか、なぜ彼を呼ばないんだ」という風に思われても、ポイチさんは全く動じないと思いますよ。
だって、勝つために選んだメンバーだったのだから。
6.最大の成果を出すための「ターンオーバー」
ポイチさんは、「誰が出ても、サンフレッチェの特長を表現できるし、力を発揮することができる」という選手層を、練習を通して作り上げてきました。
それを実際に「ターンオーバー」という手法に乗せるとき、彼は何を思ったのでしょうか。
先の著書の中に、そのことに言及した文章がありました。
サブタイトルは「ACLのアウェイで経験豊富な選手を使わなかった意図」(!)。
過去にACLに参戦した、2013年、2014年の時の話です。抜粋します。
「遠征から帰国後は、中2日、中3日でJリーグの試合が待っています。海外遠征でも国内の試合でも疲労でプレーできないとなれば、結局、その選手を2試合とも使えないことになりかねません。それを考えたとき、ACLに関してはフレッシュで走れる若い選手を主体にして、いつもより少し下の年代のベストメンバーで戦った方が絶対にパフォーマンスがいいと分析していたのです。
『なぜベテランを使わないのか』と書かれたこともありましたが、そこにはちゃんとした理由があるのです。」
この文章の前には、「ミキッチを北京に帯同させたが、長距離移動の影響が色濃く、腰を痛めてプレーできる状態ではなかった」という逸話が書いてありました。
賛否両論あると思います。しかし、森保監督は、明確な理由、意図を持って、選手起用していたのです。
今年のACLでも、その方針はブレずに継続されていました。
例えば、ピーター・ウタカ。
「負ければ敗退が決まるという大事な試合に、ウタカを連れて行かないとは何事か!」と怒った人は多かったと思います。
私も実は、高さのある山東に対して、ウタカを起用できなかったのは少し痛かった、とは思ったのです。
しかし、ウタカを帯同させなかったこと自体は、私は納得しているのです。
4月15日の新潟戦、私は観ていませんが、ウタカは先発出場したものの、スタミナ不足を思わせるようなパフォーマンスだった、という評価を読みました。
もし、この状態で山東省に連れていき、試合に出場させたとして、90分フルに戦うことができたかどうか、私には疑問に思われます。
私の認識では、清水時代にも、スタミナに不安があると評されていたはずです。
チームを移って、清水とは異なる戦術、決め事の中で、新しい役割でプレーしてきたウタカ。
楽しそうに練習しているそうですが、新たに覚えることは多く、その意味での気苦労はあるでしょう。
体力的な疲労以外にも、見えない疲労が蓄積している可能性はあります。
そして、ここが重要なのですが、ウタカの替わりはいませんが、シャドーの替わりは他にもいるのです。
山東戦では、それは茶島であり、宮吉であったわけです。
最短で中3日という連戦を戦っていけば、選手たちの疲弊はどうしても避けられません。
そんな条件下でチームの「総量」をどれだけ残せるのか、これは非常に重要な問題ですが、ポイチさんはターンオーバーを利用して、その難題を何とか克服しようと試みたのです。
確かに、結果は残せませんでした。しかし、方法論としては、決して間違ってはいなかったと思います。
なぜなら私は、「JとACLの両方で最大の成果を出す」ためのターンオーバーだったと思うからです。
そして、それは「チームの総量を残す」という作業と並行して行われたのです。
7.目に見えているものが正しいとは限らない
「サンフレッチェ広島はACLを軽視していない」と考える理由は以上とします。
ACLにおけるサンフレッチェの一連の戦いが、ACLを軽視しているように見えること、それを否定しようとは、私は思いません。
しかし、目に見えるものが常に正しいとも、私は思いません。
「結果」という目に付く要素の裏側には、サンフレッチェなりの戦いがありました。
ポイチさんのプランは、正解ではなかったかもしれませんが、彼はクラブを代表して、ベストを尽くしました。
ファンのひとりとして、誇りに思います。
彼は、クラブは、決してACLを軽視などしなかった!
そのことは間違いないと、私はそう信じています。
8.CWCでの絶賛は何だったのか
疲れてパフォーマンスが落ちているメンバーはなるべく休ませ、フレッシュなメンバーを起用する。
そもそもの話、この方法論は、CWC3位の時に絶賛されました。
その成功体験も踏まえた上で使われた「ターンオーバー」が今、「やる気がない」と主張する理由にすり替えられています。
そして、誰もその矛盾に気が付いていないのです。
9.広島のファン・サポーターへ再び問いかける
最後に、広島のファン・サポーターの方へ。
私は、サンフレッチェ広島がJとACLの両方を獲りに行っていることを述べることで、広島がACLを軽視してはいないことを証明しようとしました。
最初に書いた通り、これはあくまでも私の意見。誰かに強制する意図は全くありません。
ただ、私にはひとつ、望みたいことがあります。
今回の記事で取り上げた、カンファレンスの議事録や、ポイチさんの著書を、できれば一読してほしい。
そして、そのフィルターを通した上で、サンフレッチェ広島のACLを再評価してほしいのです。
広島ファン・サポーターの方には是非、クラブの事情や意志を知っていただきたいと思います。
それをしないでサンフレッチェを非難することは、願わくば止めてほしいのです。
よろしくお願いします。
10.あとがき
いま、「記事入力」のページの下、投稿日時に表示されている時刻は、「(23日)17時27分」。
書き始めの時刻です。
執筆時間、7時間を超えています。もちろん、自己最長です。
(推敲しているうちに、8時間を超えてしまいました。)
今回の記事は、私の立ち位置を再確認するための記事でもありました。
それだけ、思いを込めています。何か感じていただけたらいいのですが。
最後に、書き忘れていたことを書いて終わりたいと思います。
森保監督も、青山主将も、山東魯能に勝つ自信はあったのだ。
しかし、自信があっても、勝てるとは限らない。
だから、結果的に負けたからといって、勝つ気がなかったと決めつけるのは、大きな間違いだ。
誰に言おうと思ったんだっけなあ…
最後までお読み下さった皆様、ありがとうございました。