サンフレッチェの「新鮮術」から見えてきたもの

0.まえがき

なんか妙に引っ張った形になってしまい、いなげな感じになってしもうたんですが。

今回は、サンフレッチェ広島が取り入れた新しいスタイル、私がこのところ「新鮮術」と言い続けている、森保版「3-1-4-2」システムについて、感じたことのいくつかを書いていきたいと思います。

引っ張ったほど価値のある文章に仕上がるかどうかは、書いてみんと分かりませんが、とにかく、始めます。

1.導入の背景

まず、なぜサンフレッチェが、3バック&1ボランチというシステムを導入するに至ったのか、私なりに押さえておこうと思います。

きっかけは、浦和戦でした。

ハーフタイムにウタカが檄を飛ばした、とされる、あの試合です。

前半、消極的な姿勢が目立ち、逆転を許していたのですが、後半は一転、アグレッシブな姿勢を取り戻し、見事、浦和に逆転勝ちを収めたのでしたね。

その試合で、寿人投入と同時に、1ボランチ2トップ2シャドーの形にシステムを変更したポイチさん。

「相手のゴールに向かって推進力を持てるように(交代した)」とのことですが、選手たちもそれに応え、泥臭くとも前へ、と意識を統一させてプレーしたのでした。

そのとき、まさか甲府戦でもそのシステムで戦うとは、私は全く思いませんでしたが。

知っての通り、今年の広島は、佐々木翔、水本など、ディフェンダーを中心にケガ人が多く、一時は紅白戦が組めないほどになってしまいました。

また、前から圧力をかけようと無理をした末に、青山も戦線を離脱することになりました。

本職のディフェンダーが少なくなり、吉野や大谷らの突き上げもまだ足りてない、でも前線の厚みもほしい、というようなことで、浦和戦で結果につながったフォーメーションをポイチさんが採用した、という事情なのかな、と私は思っています。

※当時、中国新聞に何か書いてあったはずなのですが、忘れてしまいました。もしかしたら、そこに書いてあったことを自分が考えた体で書いてしまってるかも(苦笑)。

2.ファーストインプレッション

さて、アウェーの甲府戦では、0-3の完封勝利という結果を以って、新システムへの手応えを感じさせてくれた訳ですが、私は、その試合を観ることができませんでした。

そして1週間後、磐田戦がNHK-BSで生中継されたお陰で、初めて明確に「新鮮術」を観戦することとなりました。

私は事前に「このシステムはスリリングだ」という話を仕入れていたのですが、磐田戦が始まって1分という段階で、それが全く正しいということを知りました。

広島の最終ラインがボール保持している状況で、ピッチの広島側の半分を俯瞰のカメラが映したのですが、そこに、広島の選手が5人しか映っていなかったのです!

アウトサイドの2人(柏、清水)は、当然のように敵陣まで入り込んでいましたので、テレビ画面に収まっているのは、最終ラインの3人とGK、それに1ボランチの丸谷、だけでした。

あとは磐田の選手が何人かいるばかり。

私は、「2トップ2シャドーで攻撃的、とは言うても、実際は寿人が下がり目だったり、シバコーがボランチ近くまで下りてくる感じなんじゃないかな」と考えていたのですが、全く明後日の方向でした。

3.弱点1 ~2列目の運動量~

ここからは、マイナスな面から1つずつ挙げていって、徐々にポジティブな方に向かっていきたいと思います。

前項で触れたように、自陣でボール保持したときに敵陣に6人が侵入している、という状況になるこのシステム。

まるでアメフトのフォーメーションのようで、確かに攻撃的ですが、逆の見方をすると、これは要するに、最初からスクランブル状態なシステムだと言うこともできようかと。

磐田戦の序盤でも見られましたが、例えばウタカにパスを当てた時、ウタカがミスをしたり、あるいは磐田のDFがウタカを出し抜いたりすると、その正面に広いスペースができてしまいます。

具体的には、1ボランチの丸谷の周りのスペースです。

ミシャ式可変システム(攻撃時の「4-1-5」)で弱点とされる1ボランチ横のスペースは、「3-1-4-2」でも当然、弱点になります。

しかも、最後尾には3人しかいない訳ですから、前線でのミスは即、ピンチの種になってしまうのです。

そのスペースを埋めるためにはどうすればいいのでしょうか?

あるブロガー氏が「シャドーが埋めるのは無理があるので、最終ラインが前に出てカバーするしかない」という趣旨で書いておられたと思いますが、それも一理ある、と思いつつも、相手のFWも捨て置けないわけで、DFが確実に芽を摘むのは難しいかもしれません。

ここはやはり、2列目の選手に応援を頼む方が、守備の枚数を確保する意味でも順当ではなかろうか、と私は考えます。

ということで、このシステムは「2列目に相当な運動量が要求されるシステムである」と言えると思います。

これは実は、磐田戦を観て、私がかなり強く感じたことでした。

これまではアウトサイドの運動量ばかり言われてきましたが、ここにきて、2列目にも上下動が強いられるようになりました。

柴崎も浅野も、その意味ではよくやってくれていると思います。が、これから夏場の戦いが本格化してきますので、その辺りの負荷が非常に心配になってきます。

4.弱点2 ~連動したハイプレス~

ミシャ時代の初期のころは、ストヤノフを中央とする「3-5-2」というフォーメーションで、今のように後方からビルドアップするシステムを組んでいました。

しかし、ストヤノフマンマークを付けられるなど、DFを自由にさせない対策を採られてしまい、このシステムは行き詰ってしまいました。

(その頃、カズの進言によって生まれたのが、例の可変システムです。)

今回、新システムで戦うにあたり、「あの当時と比べると守備意識が向上しているから、十分やりこなせる」と誰かが言っていました。

守備意識、については、確かに正鵠を得ていると思いました。しかし、それだけで事足りるのか、と思うのも、当然の疑問でした。

連戦で疲労感が漂っていた浦和、守備に比重をかけて戦う甲府、そして、前線に孤立が目立ち、組織的に戦えなかった磐田。

こういう相手には、後方で作り、つないで前線に送り、相手を動かしながら攻撃することができました。

しかし、元々の組織力があり、積極的に前プレを掛けてきた鹿島には、あっさり捕まってしまいました。

理由は簡単で、広島得意の最終ラインでの組み立てを、鹿島がやらせてくれなかったからです。

後方の人数が少ない新システムでは、パスコースを多く作ることが難しいのです。

それに、相手も少ない人数でプレッシングすることができますし、チェイスの方向を限定して、広島の逃げ場所を絞り込んでしまうことすらできてしまいます。

連覇前を思わせる安い失点が多発したのも、鹿島が、新システムの弱点を見事に突いたからに他なりません。

敢えて楽観的に書くと、この「3-1-4-2」は相手を選ぶシステムである、と言えるでしょう。

次戦で当たる柏や、川崎、湘南、そして浦和、こういった「前から積極的に来る」相手に対しては使い辛い、と言わざるを得ません。

5.小休止

ここまで、弱点を2点ほど挙げてみたのですが、鹿島戦の結果を踏まえると、これらはかなり大きく危険な穴でした。

この対策として、腹案がないわけでもないのですが、ここでは触れないことにします。

それよりも、ポイチさんがどのように考え、修正してくるのか、柏レイソル戦を観ることで、まずは確認してみたいと思います。

6.光明1 ~バイタルの軸~

それにしても、大きな弱点があるけれど、嵌れば楽しいシステムであることもまた、確かなことだと思うんですよ、私は。

ここからは、私が良かったと思う点を挙げていきます。

「浦和戦以前」と「浦和戦以後」とを比較した時に、変化したことのひとつとして、1ボランチが青山から丸谷に代わったことがあります。

ボランチの周囲のスペースを使われて苦戦した、と言ったそばから、別のことを言うのはアレなのですが、実は、私はここにプラスの面を見たのです。

それは、守備に強い丸谷をアンカー的に使うことで、バイタルに守備の軸がひとつできた、と思ったからです。

浦和戦以前、私は、青山が異様に高い位置を取ることを危惧していました。

トップの位置にいるウタカとほぼ同じ位置にいて、相手のボールホルダーに寄せていくのですが、周りが連動しない上に、バックラインとの距離が開き過ぎて、組織的なプレスにならなかったからです。

結局、青山の移動でがらんどうになったバイタルエリアを相手に使われてしまう、という場面が目立ってしまいました。

私は決して、青ちゃんが悪い、と言っているわけではありません。が、彼が前に出ることでバランスを崩してしまいがちだったし、彼自身にも負荷がかかりすぎました。

それが、彼のケガもあって、ボランチが丸谷に代わりました。

丸谷は、青山ほどキックの精度はありませんが、守備の面では青山を上回るパフォーマンスを見せてくれますし、このところ、安定感がついてきたようにも見受けられます。

彼がバイタルの番人として立ちふさがってくれることは、「新鮮術」を深化させる上で、大きな要素だと思ったのです。

実際、磐田戦後の丸谷の評価は総じて高かったです。

いずれは青山が復帰して来るでしょうが、そのときに「どちらを使おうか」と監督が迷うほどに、アンカーとして活躍してほしいと思います。

7.光明2 ~2トップの採用と「ウタカ・システム」~

ミシャのサッカーが可変システムになって以降、広島のシステムは常に1トップでした。

基本的には寿人が、そして、石原直樹や浅野、ウタカなどが務めてきましたが、ここにきて、直近の3試合を、広島は2トップで戦っているわけです。

長らく継続し、浸透させてきた1トップでしたが、このところ、相手チームの研究に遭って、最盛期の輝きが若干色褪せてきた印象がありました。

特に顕著なのが、寿人の使い方でした。

相手バックラインとの駆け引きは相変わらずうまいのですが、彼にボールを配球する側、とりわけ青山へのマークが厳しくなってくると、寿人の武器の1つであるスペースへの抜け出しを使い切れなくなってきました。

また、気の利く相手に出会うと、サイドからの突破も封印されてしまい、効果的なクロスも少なくなりがちでした。

今年は、試行錯誤の末に、ウタカを1トップとして起用してきましたが、連携の浸透度がまだ浅いこともあり、彼が前線で孤立するケースも散見していました。

本来ならば、ウタカ自身の嗜好も考えると、彼を2列目で起用する方がベターだと思われるのですが、守備面での課題が残る状況では、採用しづらい形だったのでしょうか。

「最前線で特長を出してほしい」というポイチさんのリクエストにより、1トップとしてプレーしてきたのでした。

そこへ、たまたまかもしれませんが、新システムで2トップを採用する運びになりました。

ウタカと寿人がコンビを組み、背後に浅野と柴崎、外からは柏と清水、という前線の組み合わせ。

とにかく、攻撃に厚みがあり、甲府戦や磐田戦のようにハマれば、明らかに楽しめますよね。

そして、思いました。

私は、磐田戦を観て、開幕当初から大いに悩まされていた「ウタカの最適解」はこれだ!2トップだったんだ!と思ったのです。

新システムにおいて、これまで最前列で孤立しがちだったウタカの周囲で、柴崎や清水が関わるようになりました。

ウタカの横方では、寿人がDFと駆け引きをしています。

寿人はまた、折を見て、プレスバックやスペースへの顔出しで、チームの秩序を作り出してくれています。

スタミナが豊富ではないウタカは、疲労度があるとプレーの精度が落ちる傾向にありますが、周囲に、運動量豊富な柴崎や寿人がいてくれるので、ひとりで無理をする必要が少なくなって、90分間を効率的に消化することができるようになってきました。

そして、ウタカにとって最も良かったことは、下がり目の位置でプレーしやすくなったことでした。

くさびを受けに下りてくるとき、組み立てのために引いてくるとき、前線に寿人がいてくれることで、マークが分散され、ウタカの時間をより長く持てるようになりました。

「元々の技術があり、パスのセンスもある、キープ力も高い、というウタカの特長が、1トップの時よりも多く表れるようになったな。」

私は、磐田戦のウタカを観て、そのように感じたのです。

(あの試合の2点目、清水と柴崎とウタカ、3人の関係で奪い取ったゴールを観た人なら、その感じを少しは分かってくれるんじゃないかな。)

8.光明3 ~ウタカ、家族になる~

私が、J公式サイトと、ある方のツイッター、せと☆ひできさんの速報、を見ながら、甲府戦の動向を追っていたときでした。

せとさんがこのようなコメントを書かれました。

「ウタカがゴール前まで戻ってカバーに入っていた」

甲府のカウンターを受けてのことだったのですが、私はこれを読んで、非常に驚きました。

ウタカには悪いんですが、私の中には、彼が守備をする、というイメージがほとんど無かったからです。

そして、その時に抱いた懐疑的な感情は、磐田戦を観て、雲散霧消されていきました。

磐田のディフェンダーボランチか忘れましたが、カウンターを狙って持ち上がろうとするその選手を、ウタカが前線から戻って追っていたのです。

それも、ただ追いかけるだけじゃなく、いざボールを奪い去らん、とする本気のチェイスだったのです。

浦和戦のハーフタイムにウタカがチームを鼓舞する声を上げた、と知ったとき、実は私、「だったらもう少し守備してくれたらいいのに」とつぶやいたんですよ。

チームメートにアグレッシブな姿勢を求めたのなら、彼自身ももっと行動で示さないといけないんじゃないの? と思って。

でも、いま思えば、彼はその時すでに、私の思惑を越えていたんですね。

人任せではなく、自らが相手選手を追いかけ、自陣のゴール前まで戻ることも厭わず、ウタカは走ってくれたのです。

私は、これは隠れた「寿人効果」ではないか、と思っています。

寿人と同じピッチに立ち、寿人がチームの為に献身的に動き回る姿を目の当たりにして、ウタカの気持ちに何かが起こったのではなかろうか、と私はそう推測します。

レンタルとはいえ、せっかく広島に来たんだから、攻撃の良さだけじゃなく、守備的なことも覚えてほしい、と、私はウタカに期待を寄せていました。

加入から半年、少しかもしれませんが、ウタカは守備の面で、誰の目にもハッキリと分かる形で、貢献できるようになりました。

私は、これで自信を持って、「ウタカはサンフレッチェにフィットした」と言い切ることができます!

それもこれもすべて、新鮮術の採用でウタカと寿人の2トップになったお陰だと、私は思います。

9.まとめ

森保版「3-1-4-2」システムを語る、と言いながら、最後はあまり関係なくなったように見える、かもしれません。

しかし、ここに書いたすべてのことを、私は、磐田戦を観て、鹿島戦を消化していく中で、思いました。

これらの「景色」は、新戦術を観なければ見ることができなかった「景色」でした。

鹿島戦の失敗で、今後、ポイチさんがこのシステムをどう使っていくのか、現時点で私には分かりません。

ただ、主戦術になっていくにせよ、オプションの域にとどまるにせよ、出来ることならもう少し、このシステムを追求してみてほしいですね。

そしてゆくゆくは、この超攻撃的システムから、かつてのドン引きシステムまで、状況に応じていつでも使い分けることができる、そんな大人な試合運びができるサンフレッチェ広島を観てみたいと思います。

10.あとがき

おかげさまで、書き上がりました。

2晩がかり、正味5時間の大作になってしまいました(微笑)。

途中で「もっときびきび書かんといけん」と思いましたが、諦めました。

でも、今回の記事、特に今夜書いた後半は、書いていてとても楽しかった。

私には、それが何よりの収穫でした。

そして、この記事を無事、アップすることができたのは、3人の方々のおかげです。

改めて名を挙げることは控えますが、伝わっていますよね!

誠にありがとうございました。

いま、夜中の2時半頃。広島は、まとまった雨になっています。

千葉県地方も、13日は雨なんでしょうかね。

それでは、この辺で。

最後までお読み下さった皆様、ありがとうございました。