年度代表馬について考えてみた

0.まえがき

先日、2017年1月10日に、2016年度JRA賞競走馬部門の結果が発表されました。

その内容を基に、「年度代表馬」について考えてみようと思います。

まずは、個人の感想から。

1.わたくし的年度代表馬

去年の終わり、2016年有馬記念の寸評記事を書いたとき、私は、「私が思う年度代表馬」も書いたつもりでいました。

が、3日前ぐらいに、確かめようと読み返したところ、一切そのことに触れていなくて、自分に驚いてしまいました。

私の記憶では、2着、キタサンブラックの寸評の最後に、そのことを書いていたはずだったのですが…

つまり私は、有馬記念の結果を受けて、「今年の年度代表馬キタサンブラックかな」と思いました。

GⅠを「2-1-1-0」とまとめたこと、敗れた2戦も「負けて強し」を印象付けたこと、そして、北島三郎さん(大野商事)の所有馬という話題性を含め、2016年の競馬界を盛り上げたこと。

これらを考慮して、私はそのように思ったのです。

後から考えれば、モーリスのGⅠ3勝(うち海外2勝)も見事な成績でしたし、サトノダイヤモンドもクラシックを3着-2着-1着、プラス有馬記念勝ちなら堂々としたものであり、私が考えたほど「キタサンオンリー」な状況ではなかったのですが。

ともかく、今年GⅠを2勝以上したのは上記3頭のみであり、どの馬が選ばれてもおかしくない状況でした。

そんな中、選出されたのはキタサンブラックでした。

有効投票数の過半数には届かなかったように、ある程度票が割れましたが、個人的に期待した通りの結果になり、私としてはホッとしました。

(別にそれで私が何かもらえたりするわけではないんですけどね(笑))。

2.そもそも「年度代表馬」とは?

さて、2016年はキタサンが年度代表馬に輝いたわけですが、今回特徴的だと思ったのは、有力馬3頭に十分な「獲るに値する理由」があったことです。

投票権を持つ専門家のみならず、一般の競馬ファンの間でも、今回はかなり意見が分かれていたように見受けられました。

それぞれが判断基準を持っていて、その基準に照らした意見が飛び交っていました。

と、そこで私は疑問に思いました。

年度代表馬って、そもそも何だろう?」と。

よく考えてみると、私はこれまで、年度代表馬の「定義」を確認したことがありませんでした。

初めて馬券を買ってから21年経ちますが、一度もなかったんですよ。

だから、年度代表馬を選ぶ「基準」が何なのかも、正確には分かっていないことになるのです。

というわけで、早速調べてみました。

3.「年度代表馬」の判断基準は存在しない?

ところが!

私が知りたかった答えは、私の力では見つからなかったのです。

まず、JRAホームページにある「競馬用語辞典」で「年度代表馬」を引いてみたところ、次のようにありました。

「当該年度の中央競馬を代表する競走馬のこと。報道関係者の投票結果に基づき、(中略)JRA賞競走馬各部門賞(中略)の中から選出され、(後略)」

要するに、部門賞を獲得した馬の中から1頭が選出されるということですな、フムフム。

で、何を基準にそれを選ぶのか、は書かれていませんでした。

続いて、ウィキペディアで検索。

年度代表馬(ねんどだいひょうば)とは、年間でもっとも活躍した競走馬に送られる賞。その他のスポーツでいう最優秀選手(または最高殊勲選手)に相当する賞である。」

そうですよね、で、判断基準は?

さらにウィキペディアで「JRA賞」を見てみました。(JRA競馬用語辞典には項目がありませんでした!)

「おもに中央競馬における活躍をたたえるために設けられている日本中央競馬会(JRA)の年間表彰制度である。」

ここにきてようやく、1つの指針みたいなものが現れました。

海外競馬や地方競馬の扱いについて示唆しているようです。

しかし、判断基準というほど明確なものではありません。

最後に、スポーツナビの競馬ニュースで「年度代表馬」を検索し、ヒットした記事を、有馬記念前日までさかのぼって見てみたのですが、投票の概要について書かれていた中で、ここまでの調査内容と重複しなかったのは、ある日のデイリースポーツの記事だけでした。

曰く、「投票有資格者は各部門に推奨する馬、その中から年度代表馬にふさわしいと思う馬を記入する。」と。

なお、有資格者は

(1)中央競馬記者クラブに通算3年以上加入(会友を含む)し、当該年に年間を通じて中央競馬の取材を行った者

(2)東京競馬新聞協会または日本競馬新聞協会に加盟している競馬専門紙各社が、自社を代表して投票させる者(1社あたり5人)。

だと、同記事にありました。

30分ぐらい集中的に調査して、出てきたのは結局、これだけでした。

少なくとも私が調べた限りでは、何を以って「年度代表馬にふさわしい」とするべきなのか、その具体的な指針は見つからなかったのです。

4.有資格者の数だけ判断基準が存在する

もちろん、真実は「年度代表馬は○○や□□を判断基準として選考すべし」というガイドラインが存在していて、有資格者である新聞記者やトラックマン他には伝達されているのかもしれません。

それに、私の調査が行き届いていないだけで、明示された基準がどこかに一般公開されているのかもしれません。

しかしながら、独力での調査には限界がありますし、これを書いている現状では知る術がありません。

なので、ここからは「年度代表馬の選考基準(ガイドライン)が明示されていない」という前提で話を進めることにします。

で、そう仮定した場合、次のことが成り立つと思うのです。

「有資格者は、それぞれの観点で、『年度代表馬』にふさわしい馬を自由に推奨できる。」

まあ、実際には「暗黙の了解」みたいなものがいくつか存在しているんでしょうけどね。

例えば、「中央競馬」における実績を考慮する、という建前の下、「海外競馬」での実績はあまり考慮するべきではない、とかですね。

それでも、明示された判断基準が存在しない(という仮定で話す)以上、よほど逸脱した主張でない限り、有資格者はそれなりの自由度を持って判断できるのです。

なので、例えば、海外GⅠの実績を考慮して投票する人がいてもいいのです。それはひとつの見識ですし、まして、ルール違反ではないわけですからね。

正に、「有資格者の数だけ判断基準が存在する」のが、年度代表馬の推奨行動だと言えます。

5.「年度代表馬」は、有資格者の意思の「集合体」である

先に述べた通り、2016年の年度代表馬候補は3頭いて、それぞれに称号を受けるだけの理由を持っていました。

年間通して活躍し、馬主の存在も相まって競馬界を盛り上げた、キタサンブラック

秋天を制し、海外でも活躍して、日本競馬の国際化に一役買った、モーリス。

クラシック3冠とも馬券に絡み、有馬での直接対決をも制した、サトノダイヤモンド

何度も繰り返しますが、有力馬3頭はいずれも、年度代表馬になってもおかしくないレベルでした。

そして、有資格者中の投票者291名が、それぞれの判断基準で選択した結果、年度代表馬が決定したのです。

肯定、否定、当然、それぞれに考えはあるでしょう。

でも、単純に、(全体の3分の1以上で)票数が最も多かった馬が選ばれる、というルールに則った結果が出た訳ですから、そのこと自体は尊重されるべきものだと思います。

6.推奨理由の公表を考える

ところで、2015年度まではどうだったのか知らないのですが、2016年度の記者投票の結果は、JRAのHPで公開されています。

そこで興味深いことを発見したので、記事の最後の方で書きますが、それは置いといて。

この記者投票の結果一覧ですが、有資格者の氏名と所属、各部門および年度代表馬の推奨馬名が載っていますが、推奨理由の表記はありません。

中には紙面やブログ等で理由を公表している人もいるのでしょうが、一般の競馬ファンがそれらをすべて網羅できるはずもありません。

なので、競馬ファンのほとんどは、有資格者のそれぞれがどんな理由で推薦したのかを知らない、と言ってよいと思います。

もちろん、少し詳しい競馬ファンなら、その馬が推薦された理由をある程度想像することはできるでしょう。

例えば、「最優秀ダートホース」でアウォーディーが82票獲得していますが、それはなぜなのか?とか。

まあ、これは分かりやすいから、「想像」はおそらく正解なのでしょうが、そもそも想像しようがない場合もありますよね。

中京競馬記者クラブ会友の米山充麿氏が、年度代表馬を「該当者なし」としておられるのですが、「年間でもっとも活躍した競走馬」を選ぶべき賞のはずなのに、なぜそうなるのだろうか?

そのことが理解できないと考える人は多かろうと思います。

(なお、割と常習らしいです。)

こうして考えてみると、有資格者たちがなぜその馬を選んだのか、その理由を開示していく、という方向性を、今後は検討していく必要がありそうに思えてきます。

JRA賞の透明性や納得性を高める意味においても有効だと思いますしね。

少なくとも私には、理由を開示することによる弊害が思い当たりません。

JRAには是非、研究していただきたいものですが。

7.推奨理由を公表するべきもう1つの理由

前項では、一般人の立場から、年度代表馬等の推奨理由を開示してほしい、という要望を書きました。

競馬ファンの便宜を図る意味で有意義だとも思うのですが、実は逆の意味もあると私は思っています。

それは「有資格者自身の身を守る」という観点です。

ある人物、一般の競馬ファンですが、この人は「年度代表馬に相応しいのはサトノダイヤモンドだ」と考えていて、そのことをブログに書きました。

推奨理由も納得性のあるしっかりしたものでした。

ところがこの人物、発表された結果が自分の意に染まないことに腹を立て、キタサンブラックに投票した有資格者たちを「フシ穴揃いの競馬記者ども」などと、ブログでコテンパンにこきおろしたのです。

しかも、キタサンが年度代表馬に相応しくない理由を延々と語り続けたり、出来レースだと非難したり、書きたい放題。

私は、以前この人が何かの記事で「他の意見も尊重する云々」みたいなことを書いていたのを覚えていたので、ついつい失笑してしまいました。

本当に何度も繰り返して、恐縮なのですが、2016年の年度代表馬は、それぞれ年度代表馬になってもおかしくないだけの理由を持っていました。

そして、投票権を持つ有資格者の人たちは、一部、不適切な投票をした人はいたかもしれませんが、ほとんどの人は、それぞれが熟考して、年度代表馬に相応しい馬を選択したはずです。

そんな識者たちの考えを忖度もせず、キタサンへの投票があたかも「北島さんがオーナーだから」という理由でしかないかのように決めつける、その態度は傲慢であると言わざるを得ません。

さて、ここで私が言いたいのは、もしも有資格者の投票理由が公表されていたら、彼らが、こうした理不尽とも取れる攻撃を受ける危険性が、かなり軽減されるのではないだろうか、ということです。

北島さんの存在がキタサンへの投票行動に影響を与えていることは、まず間違いないと私も思います。

しかし、キタサンブラックがレースに勝ち、北島さんが「祭り」を唄い、競馬界に明るい話題を提供したことも確かです。

キタサンに票を投じた人は、その結論の部分、明るい話題を提供した点「も」評価してキタサンを選んだ、と私は思っているのですが、仮にその考えが正しいとして、実際にその事実が公表されていたとしたら?

少なくとも、選考理由を他人に勝手に決められることは無かったはずですよね。

そして、もしも反対意見を持つ人がいて、批判を受けることがあったとしても、公表された推奨理由がフィルターとなって、有資格者その人への直接的な批判を和らげてくれるでしょう。

有資格者にとってもそれは「利」になるはずです。

「自分の意見」に対する批判なら、彼らは戦えますし、彼ら自身に対するトンチンカンな批判が来た場合も、「推奨理由、読みました?」と一時回避することができますから。

それでも非難する人はするのでしょうが、周囲から見て「どちらに理があるか」が明瞭になるだけでも、相当な「利」であると思いますね。

やはり、JRAには是非、研究していただきたいですね。

JRAにとっても結構「利」のある話だと思うし(笑)。

余談ですが、件の人物、「○○(選手)が私怨で移籍した」という私怨丸出しの記事を書くなど、独善的で視野が狭い記事をよく書いていますね。

自説に自信を持つのは結構なことですが、他説の存在を認める寛容さも必要じゃないかと、私は思うんですがね…

8.有資格者の「立ち位置」からみる投票の傾向

かなり長くなりましたが、もう少しお付き合い下さいませ(微笑)。

この記事を書くにあたり、JRAのHPで公開されている「2016年度の記者投票の結果」に目を通してみました。

個人的に懐かしい名前をそこここに確認できて楽しかったのと、その人たちがどの馬を年度代表馬に推したのかを見るのが面白かったです。

例えば、「馬三郎」(デイリースポーツ)の弥永さんは、「ありゃ、空欄だ!」とか(笑)、日刊スポーツのお歴々とか(デーブ氏も健在!)、堀内さんや田沼さんは今は会友なんだな、とか。

で、特に年度代表馬の欄を目で追ってみたのですが、ちょっと「?」と思いつくところがあって調べてみたのです。

何かというと、有資格者291名の所属団体別の得票数を集計した数値なのです。

まずはこの表をご覧ください。

※もとの結果一覧で空欄だった人については、どの馬に投票したのかが分からないので「非公表」にカウントし、そのため、発表された票数とは集計値が一致していません。

この表から読み取れるところもあるはずですが、正直、ピンと来ないんじゃないかと思います。

そこで、さらに集計を進めたものが次の表です。

ここまで絞り込んだ数値は、非常に興味深い結果になりました。

キタサンブラックへの投票率を見てください。

各競馬記者クラブに所属する有資格者の投票では、キタサンが過半数越えしています。

一方、競馬新聞協会所属のそれは、わずか約14%の割合しかありませんでした。

私なりに分析すると、

・競馬新聞の関係者は、馬主などの周辺情報よりも、レースそのものの内容を評価する傾向があり、

・スポーツ紙の関係者は、レース内容に加え、周辺情報や話題性といった付加価値を含めて選考する傾向がある。

ということが言えるのではないかと思います。

念押ししますが、これはどちらが正しいという話ではありません。

単純に、媒体の訴求先の違い(競馬新聞⇒競馬ファン、スポーツ紙⇒一般読者&競馬ファン)が、投票行動の違いに表れていることが、私には興味深かったわけです。

なお、主にテレビ放送に関わっていると思われる「放送記者クラブ」の数値が、キタサンにさほど寄っていなかったのが、少し意外に思いました。

(「もし北島さんにこだわるとしたら、それはテレビ局だろう」と思ってましたので。)

また、ほとんどのカテゴリーで「モーリス>サトノ」だったことも、少々意外だったですね。

9.考察の最後に

私にとって「年度代表馬」とは、何年か後に思い返したとき、「△△年は○○の年だった」と回想できる馬のことを指します。

2016年は、「キタサンブラック春天やJCを勝ち、サブちゃん祭りがあった年」として、私の記憶に残るだろう、と思いました。

なので、2016年の私の年度代表馬として、キタサンブラックを選びました。

因みに、2015年は確か「ドゥラメンテが2冠を達成した年」だったと思います。(実際はモーリスが受賞。)

そして2014年は、「トゥザワールド有馬記念で穴馬券をプレゼントしてくれた年」でした(笑)。(ジェンティルドンナが受賞。)

私は一般人なので、投票の責任は持っていないわけですから、自分が思う馬を自由に挙げてます。

一方、選考の有資格者の方々には、JRA賞の権威や注目度等を考慮しながら、責任を持って選択してほしいと思います。

そして、私たちは、彼らの選択を尊重することを基本として、その結果を評価する必要があります。

仮にも、「専門家の意見の集合体」であるわけですからね。

そこは間違ってはいけないと思います。

10.あとがき

相当、長くなってしまいました。

読んで頂いた方には、いつも以上に感謝いたします。

調べる時間が掛かったり、言い回しを調整したり、いろいろと時間もかかりました。

長いなりに満足して頂ければ幸いです。

最後までお読み下さった皆様、ありがとうございました。