「役割」について考えさせられた ~柏戦レビュー~

0.まえがき

今年、サンフレッチェ広島は、金曜日のナイトゲームを3試合開催しました。

ACLの関係でそうなったのですが、特筆すべきは、その全試合の開始時刻が19時30分だったことです。

これは、広島市中心部で働く社会人にとっては、かなり有難いことです。

例えば、県庁付近にある会社で、終業時刻が18時だとした場合、19時の時点でスタジアムの建物に入場するのは、かなり困難です。

現地でチケットを購入する場合は尚更です。

しかし、19時半なら、多少のゆとりを持って、観戦モードに入ることが可能です。

事前にチケットを持っていれば尚更です。

試合開始を30分遅らせることによるデメリットも存在します。

試合終了時刻が21時半辺りになってしまうため、中心部に戻れるのは、おそらく22時30分近くになるでしょうから。

人によっては、そこから更に、(東の)呉方面や西条方面、あるいは(西の)五日市・岩国方面へと帰らなければならない訳で、結構大きな30分なのです。

しかし、(週休二日制の浸透で)官公庁を含む多くの会社は翌土曜日が休みになることを思えば、デメリットとしての程度は軽減されるかもしれません。

いずれにしても、サンフレッチェ広島の平日のホームゲームを観戦するという行為は、このような現状を踏まえて行われているのです。

1.いつも通りかどうか

2016年5月13日、金曜日。

柏レイソルを迎えたサンフレッチェ広島のホームゲームは、スカイAで生中継されました。

いつものように余裕のない私は、これ幸いとテレビ観戦。(これだから私は「サポーター」を自称できんのです。)

解説は、これまたいつものように「元気丸」吉田安孝氏。ピッチサイドも、いつものように掛本智子さん。

軽い食事を済ませ、メモ用紙を準備して、テレビの電源を入れました。

広島のメンバーは、ベンチを含めて、前節の鳥栖戦と全く同じでした。

快勝した試合の後でもあり、妥当な人選と思えました。

一方のレイソルは、出場停止やケガ、コンディション面の問題により、スタメンを8名入れ替えてきました。

このメンバー交代によってレイソルがいつもと同じサッカーを表現できるのか否か、がこの試合のポイントになると思いました。

2.レイソルのペース

試合が始まり、レイソルが4バックでバランス良く陣形を敷きながら、広島の陣形にプレッシャーを掛けていきました。

そしてレイソルは、ボールを保持するとしっかりとつないで、時に、広島の敷くブロックの間を使いながら、攻撃の形を作っていきました。

広島サイドから見ると、かなり嫌らしい攻撃でした。

守備面での大きな綻びはなかったものの、取り所に苦労している風に見えました。

レイソルのプレスについては、私は、吉田さんが解説するほど、激しくガツガツ来ているようには思いませんでした。

個々のプレスの圧力という点では、浦和や湘南ほどの迫力を感じなかったのです。

しかし、プレスの連動性は、これらのチームに勝るとも劣らないほど、素晴らしいと感じました。

こうして、前半30分ぐらいまでは、レイソル優勢で推移していたと思います。

3.サンフレッチェのペース

難しい戦いを強いられた広島でしたが、プレスをかいくぐってつなげた時はチャンスを創出するところまで行っており、その辺りはさすがでした。

また、レイソルのやり方にも慣れてきたのか、少し余裕も出てきたようでした。

そして、30分辺りからは、広島の長所であるサイドからの展開も目立つようになりました。

こうしてペースを取り戻した広島は、ウタさんのシュート、シバコーのヘディングなど、レイソルゴールを脅かしました。

しかし、トゥーロン国際大会U23代表に復帰するGK中村の奮戦により、得点には至りませんでした。

4.駆け引きが面白かった前半

GKを含めたディフェンスラインからのパスワーク・ビルドアップに長ける広島と、組織的に連動したプレスでボール奪取に掛かるレイソル

お互いの狙いの中で起こる駆け引きが、非常に興味深く面白かった、前半の攻防でした。

広島の選手、特に千葉ちゃんや塩ちゃんは、ただ単純にパスを出すばかりではありません。

プレスに来る相手をギリギリまで引き寄せ、当たられる直前でヒョイと躱して、そこで初めてパスを送る、なんてことを平気でやろうとします。

引き付けることによって相手の陣形に穴ができる、そこを狙っている訳です。

もちろん失敗することもあり、そんな場合はピンチになってしまいますが、逆に、相手のプレスを剥がして、出来上がったスペースに展開出来れば、自軍のチャンス拡大につながります。

そうした球際のせめぎ合いが、前半は随所に見られました。

5.入りを間違えた広島

レイソルのキックオフで、後半が始まりました。

立ち上がりにペースをつかみたい広島でしたが、後半の入りはレイソルに軍配が上がりました。

元々、後半の入りを間違えることが少なくない広島ですが、この試合では、その悪癖が出てしまいました。

特に、レイソルサイドバックの湯澤に、タッチ際からペナ角まで斜めに入られた、あの時の対応はいただけませんでした。

転じて、後半5分頃、互いのミスから、カウンターの応酬になりましたが、これは、それぞれが大いに気を付けたいミスでした。

こういったことが後半のポイントになるのではないか、と思いました。

そして、後半10分。

チャジに代えて浅野を投入したサンフレッチェだったのですが…

6.役割が違っていた

私はてっきり、浅野をトップに置き、シバコーとウタさんの2シャドー、という布陣を採ると思っていました。

しかし実際は、チャジの位置にそのまま浅野を入れるという布陣になりました。

監督の考え方なので、それはそれで悪くない選択ではありました。

事実、投入早々、ウタさんが中央をドリブルで持ち上がり、DFが寄せて空いた広いスペースに浅野が走り込む、という形で、ビッグチャンスを創出してくれました。

トラップを選択した浅野のプレーがミスになり、得点には至らなかったものの、このまま何か結果を残してくれる、その可能性を示してくれたのですが…

7.見せ場無き切り札

終わってみれば、浅野の見せ場は、ここだけでした。

後半の半ばに差し掛かる辺りから、広島がようやくポゼッションで優位に立てるようになってきたのですが、それが却って、浅野を活かせない展開にしてしまったのは、皮肉でした。

相手にポゼッションを許しても、レイソルは、コンパクトな陣形で広島の攻撃を受け止め続けました。

サイドを振られても、スライドを早くして、決定的な場面を作らせないように心掛けていたようでした。

そのため、浅野を活用しようにも、そのためのスペースが足りない状況になってしまいました。

いくら、浅野が狭い所でのプレーが上達してきたといっても、覇気のないガーナのフル代表よりも厳しい守備を徹底していた、溌剌なレイソルの守備陣を相手にしては、彼の技量を活かし切るのは困難だったのです。

結局、極端な話、浅野は守備しかしていませんでした。

実際はともかく、少なくともある時間帯においては、私の目にはそのように映ってしまいました。

8.尻すぼみだった広島の後半戦

スタメンを入れ替えて臨んだレイソルは、試合の終盤になっても、全体の運動量が衰えませんでした。

攻撃を手詰まりに追い込み、ディフェンスラインのボール回しも自由にさせず、サンフレッチェの特長を出させませんでした。

そして自らは、カウンターを有効に使いながら、勝利を目指しました。

しかし広島も、最後のところは粘り強く守り抜きました。

特に、塩ちゃんの鉄壁感は半端なかったですね。もちろん、卓人も。

結局、スコアレスドローで終わったこの試合。

考えは様々でしょうが、私は、非常に尻すぼみだったなあ、と感じました。

スタジアムを覆った静けさが、それを表していたように思いました。

9.チームコンセプトを体現したレイソル

試合のポイントとして最初に挙げた、「レイソルがいつもと同じサッカーを表現できるのか否か」。

実は、私は今の「レイソルのサッカー」がどのようなものなのか、よく分かっていませんでした。

なので、このことについて具体的に語る資格はないかもしれません。

ただ、昨年、吉田監督が示した方向性が、下平監督に変わって、継続したスタイルになっているなあ、ということは感じました。

そして、この試合の好内容を見せられて、レイソルのスタイルがチーム全体に浸透していることが、ハッキリと腑に落ちました。

あとは、シュートの意識、ゴールに向かう意識が強まってくれば、もっといいチームに仕上がってくるのではないかと思いました。

10.ポイチさんのジレンマ?

試合前日、サカダイのサイトに載った展望記事で、森保監督が浅野の起用法について語った弁が、とても面白かったのです。

水曜日のガーナ戦で、前半45分間出場した浅野について、ポイチさんは「負荷的にも(チームでの)トレーニングと、そんなには変わらない」と言いました。

それだけ密度の濃い練習を行なっているのだという自負と、浅野への信頼度の高さを窺わせるコメントでした。

そのポイチさんの采配で、後半10分以降、ウタさん1トップ、シバコー&浅野の2シャドー、という布陣で戦った広島でしたが、結果的に、この布陣は不発に終わってしまいました。

私は現在、ウタさんの適所を「シャドー」だと考えています。

ウタさん自身もそのようなプレースタイルを志向しているようですし、寿人や浅野の下で崩しに加わる方がやりやすいようでした。

そして、開幕からシャドーでプレーしてきて、周囲との連携が構築されていく手応えを見せていたからです。

それが、浅野の離脱や寿人のケガ&体調不良により、4月以降は「ウタさん+シバコー&チャジ」という組み合わせが主流になりました。

ポイチさんも、ウタさんの強さ&決定力を活かす目的で「ウタカ1トップ」を選択し、それを継続することで、ウタさんを軸とする連携を構築してきました。

私は、途中にも書いたように、浅野を交代出場させた時点で、ウタさんをシャドーの位置に移すだろう、と思いました。

ウタさん&浅野&シバコー、という組み合わせの場合、浅野をトップに置いた方がいいと考えているからです。

その方が、各人の特長をより生かすことができると思うのです。

そのため、私は、ポイチさんのこの日の選択を、少し疑問に思いました。

思ったのですが、ウタさんを活かす布陣を継続させたい、とポイチさんが考えているのだとすれば、その方針も決して間違ってはいない、とも思うのです。

勝手な想像ですが、私は、ポイチさんは結構迷っているのではないのかな、と思います。

浅野がトゥーロンへと旅立つので、しばらくは「ウタカ1トップ」という布陣でいくしかないと思われますが、浅野が来月戻ってきたときに、監督がどのような結論に達しているのか?

しばらく待ちたいと思います。

11.ウタさんにひとつ望みたいこと

レビューの最後に、気になったことをひとつ。

ポイチさんが最近、「ウタカはあまり守備が得意ではないので…」という趣旨のコメントをしたのですが、確かに、現状は、ウタカに守備力を期待するのは難しいかもしれません。

ウタさんが、その監督の「配慮」を知っているのかどうか、どのように考えているのか、私には分かりません。

しかし、ウタさんがそのことに安んじて守備を怠ることが、無いとは思うけど、もしあるとすれば、それは考え違いなので止めてほしい。

そして、現状でも、せめて4~5回に1回くらいは、しっかりプレスバックし、相手にチャージしてほしい。

レイソル戦でも、あと少し頑張ればボール奪取できそうな、そんな場面が数回ありましたからね。

寿人、皆川、浅野、FWに位置する選手は皆、役割のひとつとしてそれを行なっています。

ウタさんだけ免除される、ということは、サンフレッチェではあり得ません。

チームプレーを重視できるウタさんなので、心配無用だとは思いますが。

よろしくお願いしたいです。

12.あとがき

いま、「笑点」を横目に見ながら、このくだりを書いています。

桂歌丸さんが「笑点」を退くことを表明しましたが、長い歴史の転換点を目の当たりにするのは、切ないことですね。

それでは。

最後までお読み下さった皆様、ありがとうございました。