東京五輪のトライアルのようだった ~2016東京マラソン回顧~

このジャンルでは初めての記事です。よろしくお願いします。

さて、普段は辛さ抑えめのコメントを心掛けている私ですが、今日の東京マラソンは、いつもよりもシビアな評価をせざるを得ない、と思っています。

厳しい言葉で表現するかもしれませんが、ここはスポナビブログですから、矩を喩えない程度で記述することにします。

1.総評

東京マラソンは、市民マラソンという面と、トップランナー達の競争という面があり、後者には更に、主に外国人選手による世界一を賭けたサーキットという側面と、日本人選手による戦いという側面に、分類することができます。

つまり、東京マラソンは、3つの異なる顔を持ち合わせているのですね。

この記事では、特に最後の顔、日本人選手による戦いに焦点を合わせて、レースを評価していこうとしている訳ですが…

その前に、優勝争いについて記しておくべきでしょう。

確か1km2分58秒という設定だったと思いますが、そのペースについていくことができた外国人選手たちの中から、優勝者が出ました。

30km地点、ペースメーカーが外れるところでレースが動くだろう、という見当はついていましたが、やはり、この地点から抜け出した、一昨年の覇者であるチュンバ、世界選手権3位の経験を持つリレサ、2人の争いとなりました。

例によって、トップ争いがほとんど放送に乗らないため、駆け引き具合など、詳細は分からないのですが、(瀬古さん曰く)スプリントに分があるリレサ選手が、チュンバ選手を突き放して、優勝の栄冠に輝きました。

タイムは、何とか2時間6分台をキープするという、世界一流の選手たち(ロンドン五輪1、2着など)が集まったにしては平凡とも言えるものでしたが、気象条件などの影響を受けた分、致し方ないかと思われます。

さて、注目されたリオ五輪代表選考ですが、日本人トップで入線したのは、ヤクルト所属の高宮祐樹でした。

しかしながら、タイムが2時間10分も切れない平々凡々なもので、残念ながら、低調なレースに終わってしまいました。

内容的にも、ほとんどの選手が消極的な姿勢に終始し、全くの期待外れ、と言われても仕方ないものでした。

ただ、後で詳評しますが、学生ランナーを中心とする若年層の選手たちが、今後に期待を持たせる内容のレースを見せてくれたこと、これは大いに評価するべきでしょう。

その意味で、今年の東京マラソンは学生に救われた、といっても過言ではないと思います。

2.気概が無かった社会人勢

放送の解説だったQちゃん(高橋尚子さん)が、「(集団の中から)飛び出して行くのは責任が伴うから怖いし、なかなか勇気を持てない、そういう心理が働いていると思う」という趣旨の話をしておられました。

また、放送中には、「日本人3位以内にこだわりたい」という、今井正人の試合前の談話が語られました。

一方、学生ランナーで、かつ、日本人2位に食い込んだ、青山学院大学(以下、青学)の下田裕太が、インタビューの中で、次のような趣旨の興味深い発言をしていました。

「(1km3分10秒ぐらいのペースは)ぼくにとってはちょうどよかったのですが、実業団の選手には遅いみたいで、イライラしている選手もいるようでした。」

オリンピックに出場する、という事柄の重さは、競技をするものでなければ実感できないものでしょう。

我々のような、ただ観戦するだけの者は、そういう心理があることを汲んで、評価する必要があります。

しかし、そのことを踏まえても、今日のレースで見られた、集団に埋没して勇気を持てない社会人選手の在りようは、いくら何でも情けない、というより他ありません。

特に、招待選手のレース運びにはガッカリでした。

牽制して、集団でスローになって、遅いと感じるペースになってもまだ牽制して、勝手にイライラして、その挙句、選考の俎上にも上がれないのでは、何のために準備してきたのか分からないではないですか。

大体、自分に合わないペースで進んでいることを知っていて、それを自分向きのペースに仕向けようと試みないのはなぜなのでしょうか?

無理に仕掛ける必要はないんです。

自分のペースに徐々に上げていけばいいのですし、そうして集団のペースを操作すれば、自分にダメージを与えずに、思うような流れにレースを持って行けそうな気がするのですが。

1kmが3分ペースだろうが、3分5秒だろうが、3分10秒だろうが、脱落する人は脱落していきます。

であれば、自分の特長が最大限に生きるように展開を作った方が、絶対に得です。

それができないような選手ならば、そもそも、オリンピックで勝負できるはずがありません。

厳しいことを言いますが、出場した選手たちのほとんどは、オリンピックの選考基準を理解していませんでした。

選考方法の最後に「本大会での活躍が期待される者」と書いてありますが、彼らはこの一文を読んでいなかったらしいですね。

3.評価したい社会人選手

そんな不満があった社会人勢でしたが、逆に評価したい選手も、2人だけですが居ました。

・高宮祐樹(ヤクルト)

日本人1位の時計としては平凡で、正直、オリンピックで云々できる現状ではないと思います。

しかし、従来の自己記録を5分近く更新したのですから、本人にとっては会心のレースだったと思いますし、高い評価をするべきでしょう。

・村山謙太(旭化成

中間点以降崩れて、2時間17分台に終わった村山ですが、外国人勢の作るペースに果敢に挑戦していったその判断と、積極性は、大いに評価していいと思います。

もちろん、最後まであのペースを貫くことはできないと思いました。案の定、余力無くバタバタになってしまいました。

でも、後方のスローペース組が軒並み収穫を得られなかったのに対して、トップレベルのスピードを体感できただけでも、彼にとって価値のある一日になりました。

今日が初マラソン。次のマラソンに必ずプラスになる、そんなレースをしたと思います。

4.積極性が光った学生勢

学生といえばびわ湖、というイメージが強いと思われる中、今年の東京マラソンには、学生ランナーが大挙して参加しました。

とりわけ、青学の集団参戦が目立ちました。

こうした学生ランナーが、社会人に交じってのマラソンということで、走りは当然未知数ですし、どこまで善戦できるのだろう、という疑問はありました。

しかし、終わってみれば、青学勢から日本人2位と3位が生まれたという結果になりました。

正直言って予想外でしたが、社会人勢の不調を差し引いても立派な成績で、見事なものでした。

面白かったのはインタビューで、最後に追い上げて日本人3位を確保した一色恭志が、開口一番、「下田に負けたのが悔しい」と話したのが、青学チームの仲の良さと、ライバル意識の強さを感じさせて、とても良かったと思いました。

30km過ぎに飛び出した服部勇馬の健闘も光りましたね。

あそこは勝負所でしたし、そこを逃さず抜け出した辺りは、さすがは学生トップクラスの実力者でした。

沿道へのレスポンスが余計でしたが、あの時点までは確かに余裕がありそうでしたし、微笑ましく観ていられました。

最後の5kmで、きつい思いを味わったようですが、彼も初マラソンでしたし、今後につながるいい経験をしましたね。

レース途中、社会人選手たちが牽制に終始する中、下田や渡辺利典らが集団を引っ張るなど、学生勢がレースを動かそうとしました。

先輩の出岐雄大中国電力)辺りが、これに呼応して動いてくれれば良かったのですが、ともあれ、青学勢を中心に、学生ランナーの前向きな姿勢がこの大会を彩ったことは、間違いありません。

下田は、先のインタビューでこうも語りました。

「1km3分10秒のペースでも、最後は3分20秒とかかかってしまう。もっと力を付けていかなければならない。(要旨)」

日本人2位という望外の好成績を挙げても、それに満足しない姿勢。その向上心が、彼の成長を助けてくれるでしょう。

このように、村山を含めた若い選手たちが今日のマラソンを体験した意味は、4年後に向けて、非常に大きいと思います。

既存の勢力に飽き足らない人は、彼らの活躍を追ってみることをお勧めします。

2020年の選考レースで、彼らが躍動する姿を、観ることができるかもしれません。

期待が膨らみます。

5.選考レースとしての評価

Qちゃんがレース中に、「福岡国際の結果を頭に思いながらレースをしなくてはならない」という趣旨の発言をされていたのですが、残念なことに、今回、東京マラソンに参加した選手のほとんどは、福岡の結果を加味しないレースを展開してしまったのです。

福岡との比較において、今日の内容では圧倒的に不利だろうと思います。

確かに、エクスキューズはあります。

東京コース特有の上り坂とアップダウン。無いに等しい風。気温の上昇。

優勝タイムが平凡だったことからも、これらの条件が時計に影響したのは確かでしょう。

しかし、レース条件がどうであろうと、選手たち全体に「福岡を上回ろう!」というムードが無ければ、福岡を超えるレースを作ることは難しい。

今日は、有力選手のほとんどが、「代表の座を勝ち取ろう!」と考えるよりも、「日本人3位以内に何とか収まろう」という考えでレースに臨んでいたように見えました。

誰もが勝ちたいし、その意欲でレースに臨んでいたはずですが、それならばもう少し、打開する方法を考えてほしかった。

それができない選手にオリンピックの代表を任せようとは、誰も思わないでしょうからね。

びわ湖毎日の結果が分からない現状ですが、選手選考に関して、今年の東京マラソンは、ほとんど参考にならないレースになってしまった、と私は思います。

自己記録で頑張った高宮には申し訳ないですが、今日のレースからオリンピック代表を選んではいけない。

そんなことすら考えた、今年の東京マラソンでした。

6.おまけ ~日テレのスポーツ中継について~

今年の東京マラソンは、日本テレビが放映しました。

早起きしてレースをテレビ観戦した感想を、最後に書きたいと思うのですが…

ぶっちゃけ、評価は低いです。通知表でいえば「がんばりましょう」辺りでしょうか。

約3時間の長丁場ですから、多少のミスはあっても仕方ありません。

だから、少し口が回らないとか、噛んでしまったりとか、細かいところまで目くじらを立てるつもりはありません。

しかし、ここは間違ってはいけない、というポイントでのミスは見過ごせません。

選手の言い間違い、国名の言い間違い、そして、大事な日本人3位の選手さえ見誤る。

今日の実況は、そういう重要なミスが多かったと思います。

最近、ゼロックス杯、ACL(ともにサッカー)、そして東京マラソンと、日本テレビのスポーツ中継を続けざまに観ることになりましたが、その感想は総じて物足りませんでした。

あくまでも私個人の感想ですし、日テレに限ったことでもないので、汐留に大挙して押し寄せるほどのことではないのですが。

伝える仕事は難易度が高い、と思いますが、そこはプロの話し手なので、こんな素人から後ろ指を指されない程度にはミスを減らして、いい放送を作り上げてほしいものです。

7.終わりに

ラソン五輪代表の選考レースは、男女とも、いよいよクライマックスが迫っています。

来週はびわ湖毎日マラソン(男子)、再来週は名古屋ウィメンズマラソン(女子)、そして選考会議、という流れですね。

名古屋は、午前中であることを忘れて、起きたら終わっているということが何度かあったので、今年は気を付けたいと思います。

次回以降、回顧文を書くかどうかは分かりません。

もし書くことがあったら、よろしくお願いします。

最後までお読み下さった皆様、ありがとうございました。