【CWC】地に足を付けて ~広州恒大戦レビュー~
0.まえがき
まだ3日しか経っていないのに、すごく以前の話のように思えます。
月曜日のJリーグアワード、今日の優勝パレードと、サンフレッチェに関わるニュースが目白押しにやってきたから、CWC3位決定戦が、とても昔のことのように錯覚してしまいます。
自身の仕事が忙しかったせいでもありますけどね。今年最後の祝日も、職場で過ごしました。
昼下がり、時計をチラ見して「そろそろパレードの時間だな」と考えたら、「参加したかったなあ」という気持ちが芽生えてきて、ちょっと困ってしまいました。
1.エンスト状態から立ち直る
2015年12月20日、日曜日。大会3位を賭けた広州恒大との試合が行われました。
リーベル・プレート戦から中3日。
中間、私は少し「燃え尽きた感」があったらしく、試合が日々迫ってきても、何となく盛り上がりに欠けるというか、気持ちのエンジンがかからないもどかしさがあったんですね。
しかし、当日になり、高校駅伝女子→同男子→朝日杯(競馬)と観ていくうちに、上手い具合に気持ちが高揚してくれて、試合の始まる16時には、すっかり臨戦態勢が出来上がっていました。
とりわけ、世羅高校のアベック優勝が特効薬になってくれました。
2.スカウティング不足
さて、「この試合はレビューを書こう」と思い、いつも通りメモを用意したまでは良かったのですが、程なくして、いつもと勝手が違うことに気付いてしまいました。
「広州恒大のことが分からない…」
これがJリーグであれば、相手チームのことは多少なりとも想像がつきます。
が、広州恒大にどんなメンバーが居て、どのようなサッカーをするのか、そんな予備知識が、私には全くないのです。
試合が終わった今でも、実はまだほとんど分かっていません。(パウリーニョ選手が素晴らしいプレーヤーであることぐらいは分かりましたが。)
そんな状態なので、例えば、出場停止の千葉ちゃんの代わりに、宮原がDFラインに入ったと知って、「高さ的にどうなんだろうか?」と思ったんですが、広州が高さを生かしてくるチームなのかどうかが分からないので、その感想が的を射ているのかが、そもそも分からないのでした。
まさに手探り状態での観戦になりました。
3.ピンボール
前半が始まるや否や、広州がものすごい勢いで攻撃を仕掛けてきました。
私は一瞬、かつてのいわゆる「オフト・マジック」の話(*1)を思い出していたのですが、如何せん、ノスタルジーに浸る余裕はありませんでした。
前半4分、広州のCKはショートコーナーになり、最初のシュートはストップしたものの、その直後、枠を外れたシュートに反応したパウリーニョが、ヘディングでゴールに運んだのでした。
つい最近、ドウくんがCSでG大阪相手にやったことを、今度は、広島がやられてしまうとは、思いもよりませんでした。
(*1)「ハンス・オフト氏が日本代表監督の頃、ある大会(註:ダイナスティカップらしい)の中国戦前のミーティングで、『中国は最初の25分間は猛攻に来るが、それを防げば勝機が来る』的な話をしたが、その通りの試合展開になったので、選手たちが彼に括目した」という話。
そのことが書かれた本は、私の手元にはあるのですが、どこかの段ボール箱の中に入っています(苦笑)。
4.実力差を感じた前半
機先を制された広島ですが、ここからが大事だということは、無論、選手たちは分かっています。
私も、「ドーハの悲劇」の時にキング・カズが挙げた先制点が前半5分だったことを思い出して(*2)、「まだこれからだ!」と気持ちを切り替えました。
とはいえ、このまま広州の猛攻が続いたら、さしもの広島も苦しくなってくるのは必定で、正直なところ、気が気でありませんでした。
幸い、得点後の広州が少しペースを落としてくれたので、広島も2回、3回と、チャンスを作ることができていました。
特に、サイドからの攻撃はやはり有効で、ミカが1対1で仕掛けた時はほぼ勝てていましたし、航平のクロスもいい働きをしていました。
ただ、広州にボールを保持されたときは、広島が奪いに行ってもなかなか取ることができませんでした。
青ちゃんを中心に、いつも通りプレッシャーを掛けに行くわけですが、広州の選手たちはさすがに上手かった。
プレスをいなしては、厳しいエリアに繋いで広島ゴールに迫るので、かなり肝を冷やしてしまいました。
もちろん、広島守備陣は、最後のところは体を張って防ぐ、いつも通りの集中した守備を見せてくれました。
しかし、そのことは十分知っているはずの私が、シュートブロックを見て「ああそうだった、サンフレにはこれがあったんだった」と思い出す位、広州の攻撃は強かった。
解説(ゲスト?)の岡田武史さんもおっしゃっていましたが、前半の広州は、余裕ある試合運びでした。
広州恒大の強さを、私は初めて実感したのでした。
(*2)実は私の記憶では「前半6分」でした(笑)。
で、当時、先取点の時間が早すぎたのが却って良くなかった、という論評がありました。広州も、畳みかけて2点目を取っておけば良かったのだけど、1点取って安心したのか力を緩めてしまったのが、結果的には良くなかったと思います。
5.気持ちが折れそうになる
ハーフタイム、テレビの電源を切って、しばし前半を振り返ると、「諦めてはいない」と思う背後から、ネガティブな感情が現れてきてしまうのでした。
有効だったサイド攻撃に対して、広州が何らかの手を打ってくることが予想されました。広島がそれに対抗してバランス良く攻撃できるだろうか。
選手交代の成否がカギになるだろうけど、なかなかに難しい選択を強いられそう。
寿人が危険なエリアで仕事できていたので、彼のゴール感覚をピッチに残しておきたいが、イエローを1枚もらっているし…
いま考えると、どうも私は、前半の広州の強さに、少しビビってしまったらしいです。
6.反発心
後半開始が迫ったので、再びテレビを点けたのですが、ちょうどその時、「この試合の勝者予想」なる企画の結果発表が、正に行われようとしていました。
慌てて、すぐにテレビの電源を切りました。
私は個人的に、サッカー中継でのこの手の企画ほど、無意味なものはないと思っています。
この試合を例に取ると、「広島勝利」の支持率が高すぎると何かウソくさいし、逆に低すぎると過小評価されていると思えてきます。
つまり、どっちに転んでも釈然としないのです。
それに、バルサやバイエルンが相手ならともかく、広州恒大ならば、明らかな力差があるわけではないはず。
であれば、一番勝負なのだから、どちらが勝っても不思議はないと思うのです。
再びテレビを点けたとき、私は腹を括りました。
勝負の行方は分からない。だから、あくまでも広島が勝利することを信じよう、と心に決めたのでした。
7.交代的中1 ~ドウくんの場合~
後半が始まってしばらく、私は試合に見入っていて、メモを取るゆとりはありませんでした。
ただ、広州がゆっくりプレーしてくれたので、広島もさほど困らないで戦えている、という印象でした。
そんな中、ポイチさんが交代のカードを1枚ずつ切っていきます。
まず、寿人に代えてドウくんを投入し、ジャガーを1トップに上げます。
続いて、ミカに代えてカシッチを投入、サイド攻撃の継続を図ります。
そして、待望の同点ゴールは、ドウくんの頭脳プレーによってもたらされたのです。
CKを蹴ったチャジのボールがゴール前に流れる、その直前、ドウくんは相手DFと駆け引きをしていました。
彼のヘディングの瞬間、広州の3番(メイ・ファン)は、完全にドウくんを見失っていました。
試合後のコメントで明らかになりましたが、ドウくんの予測が、この得点をもたらしました。
広州守備陣の集中の欠如も要因ではありましたが、それよりも、ドウくんが広島で学んだことをあの場面で生かし切ったことが、最大の要因ではなかったでしょうか。
8.交代的中2 ~カシッチの場合~
広島が同点に追い付く場合、当然、広州恒大がそれを黙って受け入れるはずはなく、また試合当初のようなラッシュをかけてくるだろう。
私はそう思って、少し覚悟していました。
しかし、案に相違して、広州がアグレッシブに攻勢をかけてくることはありませんでした。
拍子抜けしましたが、でも、広島にとってみれば有難いことなので、「しめしめ」と思ってみていました。
そして気が付きました。
広州恒大の選手たちは、総じて、足が止まってしまいました。
解説陣よりも先に気が付いて、少しいい気になる私(笑)。
広島の逆転ゴールは、そんな広州の疲労感を突いたところから生まれました。
カシッチがゴールライン付近まで突破して上げたセンタリングを、ジャガーが頭で合わせます。
そのボールはクロスバーに阻まれましたが、跳ね返りを、ゴール前に抜け出したドウくんが、どフリーで押し込んだのでした。
この場面、広州の守備陣がボールウォッチャーになってしまい、ドウくんを捕捉することができなかった訳です。
と同時に、サイドの攻防でカシッチを止める余力が、広州側に残っていなかった点も、このゴールに結び付いた理由だと言えます。
前半から、ミカとの勝負に手を焼いていた印象があった広州。
後半の苦しい時間帯に、カシッチのような活気ある選手が入ることで、広州はさらに窮地に追い込まれたのです。
連戦でターンオーバーせざるを得ない状況で、ケガの功名的に生まれた「ミキッチ→カシッチ」のリレーですが、破壊力は抜群でした。
特に、中2日の広州には効果てきめんでした。
天皇杯でも、このリレーになるタイミングがあるかもしれません。今から楽しみです。
9.「広島らしいサッカー」が挙げた勝利
久しぶりにドキドキした、ロスタイムの相手のCKなどを経て、広島はしっかりと試合をクローズさせました。
今年のアジアチャンピオンを2-1で下したサンフレッチェ広島が、大陸王者が集うカップ戦の3位に輝きました。
この日の広州恒大は、バルサ戦から中2日という強行日程で、しかも、DFの1人を大怪我で欠くという不運も重なりました。
また、選手交代を、新たなケガ人のために使わなければなりませんでした。
その意味で、広州は、本来の力を出し切れた訳ではありませんでした。
しかしながら、広島も19日間で6試合目ということなので、中3日だったといっても、スケジュール条件は広州と大差ない状況でした。
よって、試合環境は五分五分だったと言っていいでしょう。
今回、広島が勝利したのは、そういう厳しい状況でも、出場した選手が実力通りかそれ以上の力を発揮し、役割を果たし切ったからだと思います。
また、得点シーンに象徴されるように、ここぞという場面での集中力や、勝負への執着心の部分で、広島が広州を上回ったからだと思います。
こうしたプリミティブな部分を大事にする広島のサッカーを、多くの人に知ってもらうことができたのではないでしょうか。
10.CWCの先にあるもの
次に広州恒大と公式戦を戦える(可能性がある)のは、もちろん、来年のACLです。
今回は広島が勝ったけれども、その時に勝てるかどうかは、やっぱり半々の可能性になると思います。
「CWC3位」がそのまま「世界3位」を表す訳ではないですし、この1勝で「広島>広州」だと決定した訳でもありません。
そのことは肝に銘じておく必要があります。
監督や選手たちは、この結果に満足してはいないようです。
さらに精進を重ねて、次のステップでも勝負できる実力を身につけようとしています。
CWCで戦った4試合は、サンフレッチェ広島にとって、非常に大きな財産になりました。
「開催国王者」だということがとやかく言われたりしましたが、この4試合が「アジア王者」になるための貴重な経験として活かされるならば、少しぐらい後ろ指を指されたところで、どうということはありません。
ともかく、サンフレッチェの戦いは次のステージへと続いていきます。
まずは12月にあと2試合戦って(微笑)、元日にまた1試合、是非とも頂点を目指してほしいです。
そして、ゼロックス杯を挟んで、その次の公式戦は、ACLです。
またCWCの舞台に戻るため、1つずつ階段を上っていってほしいと思います。
11.あとがき
26日の天皇杯、FC東京戦。
NHK-BSでは、生中継してくれません(泣)。
NHKの役割を考えると、致し方ないのかもしれないんですが、チャンピオンの試合を生で観れないのは寂しいですよね…
長崎まで行ける余裕もないですし。
尤も、多分その日は仕事になると思うんですけどね(苦笑)。
最後までお読み下さった皆様、ありがとうございました。