受け継がれていく「広島イズム」 +今夜のCWCについて

1.カシッチの移籍交渉に現れた、ある人物

昨日、あるきっかけから思い立って(*)、ウィキペディア柏好文選手のことを調べてみたのです。

知りたかったことはすぐに分かったのですが、とりあえず全部読んでみたところ、脚注に、インタビュー記事へのリンクが張ってありました。

ジャイアントキリングエクストラ」なるサイトに載っていたインタビューは、今年の7月16日の日付で掲載されたものでした。

原田大輔氏が取材し、書かれたその文章は、カシッチの人となりも分かって、私の興味を満たしてくれました。

が、さらに興味深かったのは、カシッチが甲府から広島に移籍する顛末が書かれていたことでした。

城福浩監督と出会い、甲府で成長できたこと。「甲府に何も残せなかった」ことを悔いながらも、次のステップに進みたかったこと。

そして、オファーを受けたすべてのチームから話を聞いたこと。

結果的に、カシッチの選択肢は、甲府残留か、広島への移籍か、という2つに絞られたのですが、彼の話によれば…

移籍交渉の席、サンフレッチェ広島から彼を訪ねたのは、強化担当者と、森保一監督その人だったそうです。

監督自らが交渉の場に顔を出したのは、広島だけだった、とカシッチは言います。

ポイチさんはカシッチに、チームが柏を必要としていること、チームが柏に何を求めているのかということを、条件面の話に先んじて伝えました。

しかも、ポジションを確約するようなことは一切言わなかった。あくまでも、ポジションは自分で奪うものだ、と言われたことが、カシッチの印象に強く残ったのです。

(*)別件で確かめたいことがあってCS決勝の初戦の映像を見たときに、カシッチが挙げた逆転ゴール後、歓喜でもみくちゃになったカシッチを、シバコー先生が蹴りまくっていまして(微笑)。

もちろん喜びの表現なのですが、それで「確かシバコーって、国士舘でカシッチの先輩だったんだよな?」と思って、その確認のためにウィキったのでした。

2.人間・今西和男

この記事を読んだ直後、私は、別の記事に似たようなことが書かれていたことを思い出していました。

今年の夏からWEBスポルティーバで連載されているコラム、『育将・今西和男』。(書き手は木村元彦氏。)

日本一のゼネラルマネージャーと呼ばれ、サンフレッチェ広島の総監督として今日の礎を築いた、今西さん。

彼の人間性を浮き彫りにする良質なコラムですが、その連載記事の中に、ポイチさんとカシッチのエピソードに似た事例を、いくつか見ることができるのです。

例えば、サンフレッチェ創成期のDF、松田浩氏は、「今西さんは社会人としても成長しろと言ってくれたし、仕事面でも鍛えてもらえそうだった」「今西さんはペラペラと偉そうに『わしに任せとけ』なんて絶対言わないんですが、そういう面倒見の良さがオーラとして漂っていたんですね」と語っています。

今西さんは、スカウトがよくやる口八丁の勧誘トークをしないし、できなかったのですが、クラブのビジョン、方向性を正しく伝えることはできたし、ブレない一貫性も備わっていたのです。

風間八宏氏を、サンフレッチェの前身であるマツダ入団に導いた話などは、今西さんの真骨頂を示しています。

ドイツに単身渡って、5年間プロとして戦ってきた八宏さんには、日本のみならず、海外のクラブからもオファーが殺到したらしいのですが、彼は、当時2部に落ちていたマツダを選択しました。

私は、まだ学生だった当時、そのニュースを読んで非常に驚いたのですが、八宏さんがその決断をした理由は、今西さんが八宏さんに見せた「本気度」にあったのです。

八宏さんはこう語ります。

「今西さんのところだけが本気だというのが分かったんです。ドイツでやっている5年間、ずっと見に来てくれていた。(中略)サラリーもやりがいも観客数も全然、ドイツの方があった。でも、マツダのチームビジョンというのがしっかりと伝わってきたわけです。『リーダーとしてお前が欲しい』『真っ白のチームだから、本当のプロのマインドをチームで示して欲しい』と、自分の役回りも明確に言ってくれた。そして、契約書から何から提示の額まで、しっかりと持ってきてくれたのが今西さんだけだったんです」

3.今西さんからポイチさんへ受け継がれた「広島イズム」

森保監督は、高校時代、選手としては無名の存在でしたが、自分の考えをしっかりと言葉にできる「できた」選手だったそうです。

試合中の視野の広さと集中力、そして彼の人間性に、今西さんは惹かれました。採用枠が不足する事態になったときも、一計を案じて手を打ち、無事、彼をマツダサッカー部に迎えたのでした。

ポイチさんが、Jリーガーとして、日本代表として、そして監督として大成できたのは、もちろん、彼自身の努力の賜物に相違ありません。

しかし、今西さんやハンス・オフト元監督など、彼の成長を助けた人物がいたからこそ、ポイチさんの今の地位があることも、見逃すことはできません。

今回、偶然のアヤで、カシッチのインタビュー記事にたどり着き、ポイチさんの一面を新たに知ることができました。

そして、ポイチさんが長年の選手生活やコーチ経験を経て培った、その信念や行動規範が、「恩師」今西さんと極めて相似していることに、大きな驚きを感じました。

これはもう、「サンフレッチェ広島」というチームのカラーがそれを作り出したとしか考えられないのです。

4.過去から未来へ「熱意」は続いていく

移籍交渉の中、城福監督にも相談した上で、カシッチは広島移籍を決断しました。

当時、「広島は他のチームよりも条件面で劣っていた」という話が伝えられました。真偽のほどは定かではありません。

しかし、ポイチさんの話を聞いて、カシッチは「(広島は)自分が上を目指していく上で、間違いなく、成長できるチームだと感じた」そうです。

「森保監督の言葉が本当に刺激になった」と。

熱意が、人の心を動かすことがあります。

熱意があれば何でも成し遂げられる、とは限りません。

でも、実際に優勝という結果を残し、Jリーグ屈指の存在となれた要因には、こうした強い熱意も、間違いなく含まれています。

今西さんやオフト氏の時代から、スチュワート・バクスター元監督、久保允誉社長(現会長)、ミハイロ・ペトロヴィッチ前監督、その他の尽力者により、サンフレッチェ広島の理念が綿々と受け継がれてきました。

そして今、その継承者である森保監督が、サンフレッチェの1つの時代を彩っています。

さらに、いずれは佐藤寿人森崎和幸青山敏弘らが、ポイチさんの背中から学び取った「広島イズム」を受け継いでいくのです。

未来は何も保証されていないけれども、サンフレッチェ広島が続いていく限り、理念は受け継がれていくでしょう。

ファンの一人として誇りに思うと共に、これからもファンの一人として「未来」を見届けてみたい。

今はそういう気持ちです。

ここからはプラスアルファとして、本日夜に行われる「クラブワールドカップ」第2戦について、少しだけ触れておこうと思います。

初戦のオークランド・シティーFC戦は観ていないのですが、雨中の戦いで怪我人が続出する、ある種、消耗戦になったようですね。

今夜は、中2日で、身体能力の高いアフリカ勢と対戦しなくてはいけないですし、厳しい戦いを強いられるのは間違いないでしょう。

気になるのはやはりシャドーの起用法なのですが、同時に、CKのキッカーを誰にするのか、というのも課題かな、と思います。

ミカやカシッチなど、サイドの選手が蹴るのが有力なんでしょうが、CK後の切り替えを考えると、サイドの選手に蹴らせたくないなあ、という思いもあります。

このような不安材料はありますが、幸いというか、当然というか、ポイチさんも選手も、ポジティブな考えで今夜の試合に臨むと発言していますし、ファンとしては信じて応援するのみです。

ただひと言、いつもと違うことを言いますが…

今夜の試合は、是非とも勝利してほしい!

内容は良かった、けど負けました、というのは、いつもは理解を示している私ですが、今夜だけは勘弁して頂きたいのです。

なぜなら、今夜勝てば、最低でもあと2試合、世界を相手に戦えるからです。

リバープレートを含めた強豪チームと対戦できる機会なんて、そうそうある訳ではないですからね。

こんなチャンス、絶対逃してほしくありません!

そういう訳で、今夜の試合、メモは取らないことにしました。詳しいレビューはお休みして、TVの前で想いを込めたいと思います。

長居に向かわれる味方の皆さん、現地での後押し、よろしくお願いします!

最後までお読み下さった皆様、ありがとうございました。