こんなことよくあるよね ~川崎戦レビュー~

0.まえがき

歯医者で打たれた麻酔が切れてくるのを意識しながら、私は、放送の時間を待っていました。

定刻3分前になってTVを点けた、つもりだったのですが、すでに放送が始まっていてビックリ。

調べ直してみると、しっかり「午後1時50分放送開始」となっていました。

聞き慣れた木村和司さんの声を聴いて、何となく安心したのを憶えています。

1.好対照な不動のメンバー

2015年10月17日、前節の敗戦から2週間、J1後半戦の第14節を、川崎フロンターレと戦うサンフレッチェ広島

当然のように、天皇杯からスタメンを全取っ換えして、FC東京戦と同じスタメンに戻してきました。

対する川崎は、スタメンもサブも、その天皇杯とすべて同じメンバーという態勢で臨んできました。

正に、勝っている時はメンバーをいじらない、という鉄則通り。当然、リーグ5連勝を狙っての布陣でした。

2.無難と懸念

立ち上がりの広島は、攻撃時に多彩なコンビネーションを見せていました。

ドウくんがミカとのコンビでライン際に開いたり、寿人がセンターサークル付近まで下りてきてポストになったり、流動的に動いてゴールに迫ろうと図っていました。

川崎の攻撃に対しても、広島はよくチェックして、容易に組み立てることを許しません。

守備でボールを奪った後、切り替えで囲まれても、上手いパス回しで、川崎に取られることなく狭いエリアをかいくぐった辺り、見事なものでした。

ただ、そうしたプレーの後にミスが出て、ボールを前に運べない、という場面も目立っていました。

特に10分を過ぎた頃から、その傾向が顕著になってきました。

3.ビッグチャンス

前半の中盤辺りに、両チームともビッグチャンスがありました。

まずは広島。カウンターでのシバコー先生が抜け出し、フリーで持ち上がります。

味方の上がりを待ったため(私見)、スピード感はなかったのですが、それでも、余裕を持ってシュートを狙える状況でした。

しかし、放ったシュートはサイドネットへ。

味方を待った判断自体は悪くなかったのですが、ここは、自分でガツガツ行ってしまう手もありましたね。惜しかった。

川崎のビッグチャンスは、DFラインの裏をめがけて蹴り出した、大久保のロングフィードから生まれました。

抜け出した小林のシュートは、卓人が見事に防いで、得点には至りませんでした。

この場面、卓人のセーブも称賛ものでしたが、川崎の狙いが垣間見える、大久保の好プレイも光りました。

やはり嘉人はフロンターレのサッカーにフィットしているんだな、と改めて感じさせられました。

4.気付かなかった分水嶺

前半の半分を過ぎ、広島は、ハーフウェイラインをなかなか越えることができなくなってしまいました。

実際、30分手前辺りからは、川崎の攻撃だけが目立っていました。

実は、前半15分までの割と早い段階で、和司さんが、川崎のポジショニングの良さを指摘しておられました。

正直なところ、私にはその辺りが見えていませんでした。

後で、その指摘が正鵠を得ていた(*1)ことが理解できるのですが、その時は半信半疑だったのです。

そういう事情もあって、私は、何だかいつの間にか川崎のペースになっていた感じがしました。

何がきっかけでそうなったのか、気が付かなかったのです。

そして、今でもよく分かっていないのです。

(*1)因みになんですけど、「正鵠を得る」は「正鵠を射る」と同じことであり、どちらも正しい使い方らしいです。どちらが語源にあたるかは諸説あるようです。

5.もっと動きを

前半の戦いを振り返ってみると、パスカットが目立つ印象が強かったですね。

これは両チームに言えることなのですが、特に、川崎の方に目立ちました。

愚考してみましたが、おそらく、広島が後方でビルドアップするときや、中盤でボールを動かそうとするとき、そのパスを相手に読まれていたのではないでしょうか。

パスの受け手がポジションを取るのですが、その位置に止まった状態で受けるのは危険が伴います。気の利いた相手なら必ず狙われますからね。

もう少し、スペースに動いてのパス出しがあってもよかった。

全体の運動量が少なく見えたのも、この辺りが関係しているかもしれません。

もちろん、川崎のポゼッションは洗練されていますし、ペースを握られてしまったので、受け身に回らざるを得ないのは仕方ないのですが。

後半、監督の指示通りに動けるのかどうか、巻き返しに期待するハーフタイムでした。

6.こういうことがあるよね その1

後半開始後も、しばらくは川崎ペースでした。

広島のアバウトなボールは、すべて川崎の下に。和司さんの言う「川崎のポジショニングの良さ」が、ここにきてようやく腑に落ちた私でした。

このまま推移してしまうのかと思っていた後半5分。その流れを一変させるゴールが、意外な形で生まれました。

ファールで得たFKをシバコー先生がエリア内へ。寿人のシュートが相手に当たり、さらに塩ちゃんが相手と競ってボールがこぼれました。

そこにいたのは、FK後、エリアに近づいていたシバコー。思い切りよくシュートを放つと、見る間にゴールに吸い込まれていきました。

前半のチャンスでバランスを選んだシバコーでしたが、今度は、積極的に打つという選択をして、それが功を奏しました。

それにしても、劣勢を強いられていたチームが先に点を取る。よくある話ではありますが、ここでも起こりましたね。

後半も苦戦を覚悟していただけに、非常に嬉しかったのですが、それにしても、あのコースに飛ぶかなあ。

和司さんは「まぐれでしょう(笑)」とおっしゃいましたが、ホントにそうかもしれないと思ってしまうような、意外性のゴールでした。

7.天皇杯の影響

意に染まぬ失点をしてしまった川崎。

当然、取り返そうと望みますが、心なしか、攻撃が急ぎ過ぎているように見えました。

また、後半15分辺りから、川崎の攻撃からやや鋭さがなくなってきた気がしました。

八宏さんがコメントで強調されていた「テンポ」の部分で、翳りもみられました。

これはやはり、天皇杯から中2日、移動あり、というスケジュールの影響が表れたものと言わざるを得ません。

川崎が攻めに重心を置く中、広島のカウンターが効いてきたのですが、川崎の攻めから守りへの切り替えが遅くなった面も否めませんでした。

ただ、勢いこそなくなったものの、運動量自体が無くなったわけではありませんでした。戦う余力は十分残していたと思います。

8.こういうことがあるよね その2

こうして、得点を機にペースを握ることになった広島。カウンターで追加点を狙い、チャンスを作っていきます。

しかし、交代出場の浅野や佐々木が躍動し、ゴールを狙うものの、決め切ることができませんでした。

ここで和司さん、「取れる時に取っておかないとあとで困ることになる」という趣旨で話し始めます。

リードしているチームを応援する身としては、あまり聞きたくない話。「いや、そんなことは起こらん!」と根拠なく思っていたのですが…

バイタルを開けてしまったのが致命的でした。大久保が、完全にフリーな状態でミドルシュートを放つと、奇妙な弾道を描いて、ゴールに突き刺さったのでした。

技術的なことはよく分かりませんが、映像で確認すると、しっかりとアウトに掛けて蹴り出していたように見えました。

卓人は「自分のミス」と自身を責めましたが、これは大久保嘉人のキックが素晴らしすぎました。

ミスがあったとすれば、それはフィールドプレーヤーの側にありました。キーパーのせいにするのは酷だと思いますね。

9.こういうことがあるよね その3

同点後、スリリングな展開になりましたが、双方、得点にはならず、試合はATへ。

そんな中、両チームがそれぞれ、サイドを手当てしてきました。

まさか、この選手の入れ替えが劇的な幕切れに結び付くとは…

カウンターで左サイドをドリブルで疾走するジャガー。いったん相手の足にワザと当ててボールを持ち直し、センタリングします。

足に引っ掛かってフワッと浮いたボールを、相手DFがクリアしますが、意図と違う場所にボールが飛んでしまいました。

そこにいたのが、投入されたばかりのギシさんでした。

途中交代で入った選手が、大きな仕事をやってのける。

ACLでG大阪が準決勝進出を決めた試合でも、交代出場の選手が勝ち越しゴールを決めました。

こういうこともサッカーではままあることですが、それにしてもギシさん、あの位置におるけえねえ(感嘆)。

一方、ガックリとうなだれる川崎の選手たち。反撃の時間も余力も、残っていませんでした。

2-1。地上波中継で盛り上がった試合は、歓喜と落胆が入り混じる決着となりました。

10.川崎の長所と課題(私なりに)

この日の夜、NHK-BS1で、山形-甲府の試合を観ました。

解説の早野宏史さんが、前半の山形について「前線に動きが無い」という指摘をしておられました。

ディエゴや川西、ロメロ・フランクといった選手たちが前線で待ち受けるのですが、みんな足元で受けようとするので、甲府からすると守りやすい、というような趣旨だったと思います(*2)。

その話を聞きながら、私は、現在の川崎フロンターレの攻撃について思い返していました(*2)。

先に書いた、前半の大久保のプレーが象徴的だったのですが、川崎の攻撃は、ポゼッションが主体ですが、スペースに入り込むという作業をうまく織り交ぜています。

特に、小林悠はこのプレーが上手いですよね。もちろん、中村憲剛や大久保などが精度のいい球を供給できることも大きいです。

守備力には定評のあるサンフレッチェであっても、裏のスペースに球出しされたら対応は難しいです。

特に川崎の場合は、横に揺さぶっておいてからこれをやるので、守る方は大変ですよね。

この辺は、広島も見習うところが多いと思います。

ただ、川崎は結局、嘉人のスーパーゴールまで得点できませんでした。そこには当然、課題があるわけです。

先程書いたように、前半30分手前辺りから、川崎の攻めばかりが目立ち、広島は防戦に努めざるを得ませんでした。

選手たちは、苦労したと思います。

しかし、観ていた私はなぜか、川崎の攻撃にそれほど怖さを感じなかったんですよね。

自分でもそのことが不思議だったのですが、改めて考えてみて、それは「川崎の攻撃が中央に偏っていた」からなのだろう、と結論付けました。

攻撃の頻度に対して、サイド攻撃の割合が少ないと感じたからです。

この試合中、エリアの中でワンタッチパスを多用して崩す、という攻撃パターンが多く見られましたが、そのこと自体は効果的でも、中央からしか来ないということであれば、守る方は比較的対処しやすいだろうと思うのです。

何と言おうか、エリア内だけ自由にやらせなければいい、みたいな。

特に、広島のような、最後のところは絶対にやらせない、というタイトな守備をウリにしているチームの場合は。

よくは知りませんが(何となく見聞きしてはいますが)、サイド攻撃を重視しないというのは、おそらく、八宏さんの哲学です。

逆に、中央のスペースを作るためにサイド攻撃を有効利用する、という考え方もあります。ミシャなどは多分、このタイプでしょう。

人それぞれに考えがあるので、是非を問うべき話ではありません。

ただ、多種多彩なパターンで攻撃された方が、守備は難しい、ということは事実だと思います。

哲学は哲学として、試合の状況に応じた柔軟性を示してみるのも、私はアリだと思います。

実は、ポイチさんにも言えることなのですがね。

(ここまで書いてきて、川崎サポブロガーのどなたかが、同じような指摘を以前されていたなあ、と思い出しました。)

因みにこの試合、私はむしろ、ショートカウンターとか、裏へのパス一本で来られた時の方に怖さを感じました。

実際、チャンスの数もそのパターンの方が多かったと思います。

(*2)念のためですが、あくまでも、昨日の試合の前半に限った話をしています。山形と川崎の優劣を比較しているつもりもありません。

11.この劇的な勝利を次につなげよう

今日は和司さんのコメントを多く引用していますが、彼はこんなこともおっしゃられました。

「もしこのまま引き分けたら、広島にはショックが残るだろう(論旨)」と。

そのことは寿人もコメントしていましたが、確かに、その通りでしょうね。

その意味で、ギシさんの挙げた勝ち越しゴールは値千金、チームを救いました。

試合終了後の涙も印象的でしたし、良かったと思います。

この劇的な勝利で、年間1位の位置に返り咲いたサンフレッチェ

途中経過はさほど重要ではない、と書き続けている私ですが、必要以上には喜ばないだけで、実は気になるし、嬉しいのです。

浦和の試合結果なんかも結構気にしますし(笑)。

そんなサンフレッチェですが、この試合、勝ち切れたから良かったものの、決定力の面での課題は克服し切れませんでしたね。

リードして、カウンターで優位に立っていた時間帯に、1点でも追加できていれば、もっと楽に試合を運べたはずでした。

ポイチさんも苦言を呈していますし、和司さんも「(劇的な勝利だったが)自作自演ですからねえ」と言って、早い段階で仕留められなかったことを嘆いておられましたし。

相手があることなので、観る側があまりナーバスになってはいけないですかね。偉そうに言える立場でもないですし。

でも、誰より、選手たち自身が納得できないだろうと思うので、敢えて指摘させていただいています。

チャンピオンシップへの切符が、手に届くところまで来ました。

時間の問題だと思わなくもないですが、決まるまでは気を抜けません。

今節の劇的な勝利も、頂点に立ってこそ、より輝きを増すもの。

ひとしきり喜んだら、このことは一旦忘れて、残り3試合をいい結果で終われるよう、願うことにしましょう。

12.あとがき

今回の試合は、「サッカーあるある」が随所に詰まって、その意味でも面白い試合でした。

小見出しの「こういうことがあるよね」は、メモ書きから取りました。

ブログタイトルは微妙に違っていますが、これは、以前にR-1ぐらんぷりで優勝した佐久間一行氏のネタから抽出させていただきました。

あと、多分、過去最長の長さになってしまったと思います。いつも長くて済みません。

さて、この記事、実は当ブログの100番目の記事なのであります。

非公開のままお蔵入りさせたものや、投稿日時の都合で削除したもの等があるので、公開記事数とは一致しないのですが。

最初の記事から1年半、どうにか続けて来られました。

もちろん、自分が頑張った成果に他ならないのですが(微笑)、読んで下さる人がいることが、モチベーションになっていることも事実です。

これからも、200、300と、数を重ねていけたらいいと思っております。よろしくお願いします。

最後までお読み下さった皆様、ありがとうございました。