得点数だけでは計れない本物の試合 ~FC東京戦レビュー~

0.まえがき

2015年10月3日、ビッグアーチで行われたFC東京戦は、広島ファンには残念な結果に終わりました。

以前にちょっと書いたように、負け試合のレビューはやはり気が重いものなのですが、前回に「レポートする」と宣言していますし、書く気は十分あったのです。

実際、火曜日にレビューを書き始め、3分の1くらいまで進めていました。

しかし、その後、何やかんやで全く書く時間を取れないまま、今日まで来てしまいました。

もう、試合から1週間以上経ってしまいましたし、そこで、下書きは捨てて心機一転、記事を一から書き直すことにしました。

こんな内幕をわざわざさらす必要もないんですが(笑)。

少し長くなるかもしれませんが、読んで頂ければ幸いです。

1.試合前

私のレビューは、メンバーチェックから始まります。

試合開始の2時間前位にメンバーが発表されるので、忙しくなければ大抵チェックして、時に驚いたりしているわけです。

しかし今回の広島は、戦線離脱のカシッチの位置に航平が入るという、事前に言われていた通りのメンバーになりました。

FC東京の方も、高橋秀人が戻ってきた以外は、およそ想定内のメンバーだと思ったので、大きなサプライズはありませんでした。

その後、別のことをいろいろとやっていたら、試合開始時間ギリギリになってしまいました。

TVを点けて程無くして、NHK-BSの中継が始まりましたが、実況の𠮷松アナウンサーが、のっけから寿人のJ1通算得点のことに触れてきました。

これを中継のひとつのテーマにするのかな、と思いました。

(結局、寿人の得点はありませんでした。)

2.序盤の駆け引き

試合開始から最初の15分間は、結構試合が動いていた印象でした。

FC東京の守備力というのは、その戦績が示す通りなのですが、さすがに彼らは、守備一辺倒ということはありません。

立ち上がりも、守備的に入るという感じは特に無く、至ってノーマルな入りをしてきました。

広島としても、相手が多少は来てくれた方がやりやすい。ということで、裏への長いボールや奪ってからのカウンターが狙い目になっていました。

特に、航平が入った左サイドを意識的に使っている印象がありましたし、航平も、そのリクエストに応えてチャンスを創出していました。

こうして、広島が若干攻勢気味に試合を進める感じでした。ボールを失った後のFC東京のカウンターに対しても、チェックはしっかりできていたと思いました。

3.虚々実々

15分以降は、試合が落ち着いた感があり、ゴールに迫るシーンは比較的少なくなりました。

ただ、それはプレーの質が停滞してからではなく、中盤エリアでの主導権を巡る局面の争いになったからでした。

さすがは年間(少)失点数1位と2位タイとの戦いだけのことはあり、相手にやらせない互いの守備意識は高かったです。

その後、前半終了までこうした情勢のまま推移するのですが、それぞれの良さが出た中で、相手のエリアにより多く進入できたのは広島の方でした。

FC東京の方にカードが2枚出たことがそのことを示していると思うのですが、この辺りは、観る人によって異なる見解になるかもしれません。

但し、チャンスの回数という点では互角でした。FC東京も、カウンターから惜しいチャンスを創出していました。

特に、25分頃、塩ちゃんが体を入れ切れずに突破された場面は、肝を冷やしました。

4.惜しまれる後半の立ち上がり

ピッチリポートを聞いて、前半は両チーム共に納得できる内容だったようだ、と分かりましたが、私も観ていてそう思いました。

それを踏まえて、後半に試合がどう展開していくのかが、ハーフタイム中の関心事でした。

後半のキックオフ、解説の小島伸幸氏が何か話しているのを聞きながら、ふと、前半に広島が裏狙いを多用したのはカウンター封じの意味もあるのかも、と思いました。

答えは分からないんですが。

こうして迎えた後半の立ち上がり、今季、広島が時折見せる悪癖が、この日も現れてきてしまいました。

後方でビルドアップする際のつまらないミスが立て続けに起こり、相手に決定的なチャンスを与えてしまったのです。

こういうエアポケット、集中力の欠如が、今年は本当に多すぎます。

メモにも「ホンマ気いつけや」と殴り書きしています…

自分たちのミスから相手に主導権を与えてしまうのは、非常に勿体無いことです。なので、そこはしっかり考えてほしいと思います。

5.2つの負傷

そんなエアポケットに陥りながらも、試合は一進一退、互角の勝負になってくれて、まずは一安心。

後半の前半は、それぞれの時間帯があり、なかなか面白い展開でした。私も時間を忘れるほどでした。(「気がつけば20分(笑)」とメモしてました(笑)。)

そして迎えた「いつもの交代」の時間帯、だったのですが、この試合では、意外な形の交代となりました。

寿人が、アゴの辺りから出血し、自ら交代を要求したのです。

ただ、交代後もベンチにいたようなので、大きなケガではなかったようですし、先述の通り、浅野投入の時間帯でもあったので、さほど大きな影響はありませんでした。

一方、少し心配な負傷が数分後に訪れます。

FC東京のチャージを受けたミキッチが、どうやら足を負傷したようで、ピッチに倒れ込んでしまいました。

その場面ではOKサインが出て、プレー続行可能と判断されたのですが、のちに交代でピッチを後にすることになりました。

とりあえず、2人とも、今日の時点まで公式な負傷の情報がリリースされていないので、今後のスケジュールには影響しない程度のケガで済んだものと思われます。

天皇杯はおそらく休養に充てると思うので、次の川崎F戦での雄姿に期待しましょう。

6.不運ではない失点

後半25分、この試合唯一の得点が、FC東京から生まれました。

左サイドからのクロスを前田が落とし、橋本がシュートを放ちます。彼のシュートは枠を外れていましたが、前方に位置していた河野に当たり、コースが変わったボールがゴールに吸い込まれたのでした。

殊勲者となった河野は「狙い通りにしておいてください(笑)」とコメントしていますが、公平に見て、やはり偶然そうなったのだろうと、私は思います。

そういう意味では確かに、広島にとっては不運な形での失点だったと言えるでしょう。

ただ、シュート以降の現象は不運かもしれませんが、そこに至る過程には、決して「不運」のひと言では片付けてはならない課題がありました。

まず、ミカが最前のケガで万全ではない中で、サイドからクロスを上げさせてしまったこと。

これについては、ポイチさんが試合後に言及されていましたが、リスクマネージメントのところで何とかしたかったところでした。

そして、橋本にフリーでシュートを打たせてしまったこと。

この件でも、青ちゃんが後悔の念を試合後に語っていました。前田の落としが良かったのは確かですが、あの位置で相手をフリーにさせてはいけませんでした。

やはり、失点するのには理由があるものです。

監督や選手がそのことを知っていて、「不運」のひと言で終わらせていないことが、彼らのコメントから分かります。

今回は残念でしたが、今後のチーム作りにきっと生かしてくれることでしょう。

7.歓喜の、ノーゴール

リードしたFC東京が無理をしなくなったので、ボールは広島が握り続けていました。

公式サイトのテキスト速報でも、得点以降、FC東京の記載は選手交代のみでした(*1)。

また、FC東京が守備意識をさらに高める中、広島も、崩し自体はできていました。あとは枠に飛ばす回数を増やせたら良かったのですが…

そんな後半39分、左サイドからのギシさんのクロスにドウくんが飛び込んでヘディング、キーパーが弾くところを、右サイドに回っていた航平が詰めてゴールに蹴り込みました。

待望の同点ゴールに私も歓喜した、のですが、無念、その前にドウくんがファールを犯したとして、ゴールは認められなかったのです(*2)。

ゴールイン直後に一旦間があったので、航平がオフサイドだったかもしれないと思い、次の一瞬、決まった!と思い、自分の中で二転三転した挙句のノーゴールだったので、さすがにガッカリしました。

現地にいた人もそうだったでしょう。納得いかなかった人も多かったのではないかと想像します。

(ネット上でも賛否両論、ゴチャゴチャと言い合っているようでした。)

ただ、これは主審の判断なので仕方ありません。それに、広島の選手たちも抗議はしたようですが、ダラダラと深入りせず、切り替える姿勢を見せてくれたので、そこは称賛したいと思います。

(*1)以前に書いたことがあるのですが、ここの速報は、たまに記載が偏ることがあるので、注意は必要です。なお、Jリーグ公式サイトの速報とスポナビの速報は、同じ内容です。

(*2)スカパーのハイライトで確認しましたが、ドウくんが相手を押しのけたようには見えました。よって、主審の判断は妥当だったと思います。

8.「鳥かご」実らず(*3)

いわゆる「幻のゴール」の後も、ボールを保持し攻め続けた広島。あと少しトリッキーなことができればベターでしたが、得点の可能性は見れたと思います。

逆に、FC東京の方は、特にATの間はクリアすることしかできず、苦労の守備だったと思います。

最後の最後に、FC東京が、クリアしたボールを広島の左サイド深くに運んでキープしたとき、私は、広島の敗戦を覚悟しました。

スコアは0-1。FC東京にとっては大きな1勝、勝ち点3となりました。

(*3)「キャプテン翼」で登場した用語で、「勝っているチームが」延々とパスを回して相手を押し込んでしまう戦法のこと。

(勝っている)FC東京がボールキープできなかった数分間の状況からイメージ。立場が逆ですが、意味を分かって使ってますので、念のため。

9.勝ち点を取るために要求したいこと

試合終了の瞬間に思ったのは、勝ち点を取ることの大切さでした。

FC東京も強いチームですし、難しい試合でしたが、最低でも何とか引き分けて、勝ち点を上積みしてほしかったです。

勝負の世界ですから、負けてしまうこともあります。敗戦という結果については受け止めなければなりません。

ただ、チャンスがなくて負けたのではないだけに、あそこで決めることができていれば、という悔しさも湧いてきます。

例えば、前半にミカのクロスを合わせたシバコーのシュートとか、後半終了近くにジャガーがこぼれ球をサイドネットに当ててしまったやつとか。

「ここは決めなきゃダメでしょ!」という場面で決め切る精度が、この試合でも足りなかった。

言うほど簡単ではないことと承知していますが、以前からの課題でもあるので、精度を上げる取り組みは、強い意識で行なってほしいと思います。

10.しかし良い試合だった

FC東京のマッシモ・フィッカデンティ監督は、試合後に、次のようなコメントを残しました(*4)。

「非常にいい試合だったと思います。戦術レベルでも両方ともオーガナイズされたチームでしたし、本物の試合だったと思います。(以下略)」

サッカーではしばしば、得点の少ない試合が軽視されます。

野球には「投手戦」という言葉があり、ロースコアであっても、高評価を受ける場合がままありますが、サッカーの場合は、やはり点が入ってナンボ、のところは、どうしてもあります。

この試合も、なかなか得点が生まれませんでした。スポナビ速報のコメントでも、「つまらない試合だ」と決めつけるつぶやきがありました。

それでも、私は思いました。この試合は、両チームの特徴が発揮された好ゲームであったと。

確かに、1点しか生まれなかった。しかし、そのことで価値が落ちるような試合ではなかった、と思うのです。

得点が入らなかったから、または少なかったから、といって、短絡的に「つまらない」と決めつけるのは違うだろうと、私は思います。

もちろん、得点が多く入るような試合が盛り上がるのは確かです。この試合でも、掴んだチャンスを決め切っていれば、そういう意味で濃い内容になったかもしれません。

そのことを踏まえた上で、改めて言わせて頂きます。

この試合は、広島とFC東京の特徴が発揮された好ゲームだったと思います。

(*4)全文は、Jリーグの公式サイトで読むことができます。サンフレッチェ広島への敬意と、自身のチームへの賛辞とが、よく表れたコメントでした。

11.サイドの評価

レビューの最後に、カシッチ不在で注目されたであろう、サイドのポジションについて触れておきます。

まず、清水航平についてですが、カシッチとのタイプの違いが出ていて、良かったと思います。

後半はやや消え気味な時もありましたが、試合終了まで、健闘していたと思います。

特に、ゴールネットを揺らしたシーンなどは、まずあの位置にいるということが素晴らしかった。

航平の積極性の表れであると同時に、高い戦術理解度も示してくれました。

サンフレッチェサイドハーフとしてやるべきことを、確実に遂行してくれたと思います。

ミカの負傷により、久々に出場機会を得た山岸については、試合勘が鈍っていたか、出だしにミスが目立ったのは残念でした。

しかし、徐々に持ち前の積極性が出てきましたし、クロスの精度も悪くなかったと思います。

得点にはなりませんでしたが、あのゴールを演出したクロスもさすがでした。

ミカの状態によっては、サイドの選手層がやや手薄になるかもしれませんが、少なくとも、今回の2人の内容であれば、チーム力は十分維持できると、私はみています。

12.あとがき

年間首位の浦和が鳥栖と引き分け、その結果を受けてのFC東京戦でした。

勝てば首位に返り咲く、という状況下でしたので、この敗戦に気落ちした方は多いでしょう。

また、浦和とのマッチレースを想定しておけばよかった状況だったのが、FC東京との3つ巴で捉えなければならなくなりました。

ここで星勘定とかやり始めると、はなはだ面倒な状況になってしまいますよね。

しかし、常々書いているように、サンフレッチェ広島としては、目の前の試合に全力を投じて、自らが勝利することのみ考えるだけです。

残り4試合、川崎F→甲府→G大阪→湘南、と、難しい相手と戦わなければなりませんが、それとて、浦和もFC東京も似たようなものです。

それに、彼らは直接対決も残しているのです。

(ちなみに、浦和-鳥栖が引き分けるという結果は、十分にあり得ると思っていました。)

とにかく、シーズン終了まで、何が起こるか分かりません。

ファンやサポーターは、選手たちを信じて、応援していくしかないと思います。

最後までお読み下さった皆様、ありがとうございました。