勝ちに不思議の勝ちあり ~新潟戦レビュー~

0.まえがき

「勝ちに不思議の勝ちあり。負けに不思議の負けなし。」

江戸時代、平戸藩主の松村清(静山)が発言し、剣術書『剣談』に記された言葉だそうです。

昭和になって、かの野村克也監督が引用し、彼の名言として我々がよく知っている言葉です。

これからレビューさせていただく、2015年8月22日の新潟-広島戦、

この試合が終わってしばらく後、自然と、この言葉が胸を突いて出てきました。

その時、「今回のタイトルはこれでいこう」と、何となく決めたのでした。

ところが、一応、意味を調べておこうと、先程ネット検索してみたところ、どうも様子がおかしいのです。

そもそも、松村静山なる人物の存在など知らなかったので、その事実に戸惑いました。

そして、松村氏が述べた本来の意味と、野村氏が語った意味が、どうやら異なっているらしいのです。

あるいは、野村氏の発言を聞いた我々の、各々の受け取り方が、異なっているらしいのです。

1.TBSチャンネル、再び

とてもじゃないけど、今、新潟まで遠征するほどの余裕など、私にはありません。

となると、TV放送に頼るしかありませんが、前回の記事をアップした時点では、当日に放送されるかどうか分かっていませんでした。

土曜日になり、とりあえず調べてみると、またしても、TBSチャンネルで放送してくれるという。

私が、テレビでじっくりとサンフレッチェの試合を観るのは、実に2ヵ月ぶり。その時もTBSチャンネルに助けてもらったのでした。

まっこと、ありがたし。

しかも、解説が水沼貴史氏だという。前々回の記事に登場してもらったばかりなだけに、「縁」を感じました。

氏の解説で試合を観るのも久しぶり。サカつくでおなじみのクールな語り口は、今も変わりませんね。

なお、実況は、大ちゃんこと清水大輔アナウンサーでした。

2.我慢のスタメン

ホームでの連敗を受けて、メンバーがどのようになるのか、まずはそこに注目が集まったものと思います。

しかし、ポイチさんの選択は、清水とミキッチを入れ替えた以外、前節と同じメンバーでした。

中国新聞では塩谷の先発復帰を疑問視されていましたが、この試合も、佐々木ではなく塩谷を先発に使ってきました。

また、攻撃面で悩みを抱える野津田も、そのまま起用してきました。

もちろん、練習でアピールできなければメンバーになれないのがサンフレッチェなので、その勝負を勝ち抜いた故のメンバー入りなのは間違いありません。

しかし私は、それに上乗せして、塩ちゃんや岳人に、レイソル戦での悔しさを試合で晴らす機会を与える、という意味もあったのではないかと思いました。

さらにポイントと見たのは、皆川のベンチメンバー入りでした。

改めて考えると、ドウくんの疲労の度合を考慮に入れてのことか、という想像ができるのですが、メンバーを見た時の第一感は、新潟の指宿対策として用意したのかも、でした。

メンバーはそれぞれに、想うところがあったでしょう。どうにか、成功体験を得られたらいいなあ、と思いました。

3.監督こぼれ話

新潟の柳下正明監督といえば、広島の戦術についてとやかく言う監督として、広島ファンにはおなじみの存在ではないでしょうか。

その柳下監督の試合前のコメントが、ピッチリポーターから伝えられたのですが、その中に「(自分達からアクションを起こして)退屈な時間を短くしたい」という言葉がありました。

早速、ヤンツーらしさを出してきたなあ、と思わずにはいられませんでした。

一方のポイチさん。テレビの字幕で「46歳」となっていましたが…

いや、正しいのです。実は、試合翌日の8月23日が、彼の誕生日なのでした。

4.呪縛

新潟のキックオフで試合が始まりましたが、そのボールを右サイドに運んだ新潟が、いきなり際どいシーンを演出してきました。

負けじと広島も、早速、お返しのチャンスを作りましたが、これは不発。

以後、新潟のアグレッシブなプレスとショートカウンターに、広島は苦しめられることになりました。

最初の10分間が経過したところで、まず、広島の判断の遅さが気になりました。

新潟の動きの良さも目立ったのですが、特にセカンドボールへの反応で、新潟の選手たちに後れを取る場面が多かったのです。

また、球際でも劣勢を強いられていました。正に、広島がやりたいサッカーを新潟にやられているような、そんな印象でした。

新潟の選手が細かくミスをしてくれるので助かっていましたが…

5.意図が感じられない

何とか、自分たちのペースに試合を持っていきたいサンフレッチェ

しかし、前半30分を過ぎても、新潟の優勢は続きました。

時間が経っても、球際で勝てていない状況は変わらなかったですし、セカンドボールも、大部分が新潟に流れてしまう始末。

何よりも気になったのは、守備でボールを奪った後の展開に、意図が感じられないことでした。

特に、クリアがとにかく中途半端。厳しいプレスをいなす余裕がなく、ただ前に蹴り出すだけのクリアに見えて仕方がありませんでした。

6.綯い交ぜ(ないまぜ)

前半が終了した時点で、0-0の同点。

結果として失点せずに済んだので、広島としては決して悪くないのですが、試合のペースは新潟が握っていたとみました。

新潟の攻撃でのミスに助けられた部分と、卓人を中心に最後のところを粘ったというプラスの部分とが、綯い交ぜになってのスコアレスでした。

7.ある妄想

ハーフタイム中、前半を振り返る中で、私はこんなことを考えました。

「青ちゃんへのマーク、厳しかったわ。たまにカズと入れ替わってみちゃどうかいの。ダメなんかのぅ。」(メモのまま)

センターバックがワイドに開いてカズがDFラインに入る、という陣形を取るのがサンフレッチェの形である、と、相手チームは分かっています。相手のシャドウやボランチが、常に青ちゃんをマークしているのです。

そこでたまには、青ちゃんが最後尾で作って、カズがバイタルでハブになる、ということをするのも一考なのでは?と思ったのです。

8.ぬか喜び

後半開始から何分か経った頃、カシッチの仕掛けからコーナーを取りました。

CKの結果は、ミカが珍しく枠内に飛ばす(笑&謝)シュートを放ったものの、得点にはなりませんでした。

私はこれを機に、広島がペースを握れるかも、と期待しました。

が、新潟の圧力は後半も衰えず、結局、後半も新潟がペースを握る展開になりました。

9.喜び

その場面は、突然、訪れました。

サイドチェンジのパスが、右サイド大外のミカに向かいました。

対面のコルテースがチェックに向かいますが、やや距離があり、ミカにはヘディングをする余裕がありました。

コルテースが動いた背後には広大なスペースが…

その時、新潟の選手が4人、自陣の右サイドに偏ってしまいました。(映像で確認済み。)

広島から見た右サイドは、一瞬、がら空きの状態になったのでした。

そこに走り込んできたのは、塩谷でした。

ミカのリターンにバウンドを合わせ、ノートラップで、前方のスペースに向かう浅野にパスをします。

浅野が後ろ足で戻すと、塩ちゃんがワンツーで抜け出した形になり、そのままシュートを放ちます。

今節のベストゴール候補に選ばれた、塩ちゃんのスーパーゴールで、劣勢の広島が先制したのでした。

10.手放しでは喜べない

得点が入りましたが、新潟のペースは変わりません。

指宿の、守備陣の虚をつくミドルシュートなど、チャンスを何度も作り、1点のビハインドなどすぐにも取り返しそうな勢いでした。

広島は、とにかく中盤で奪われ過ぎていました。

これでは、守備陣に負担がかかってしまいます。疲労度が全然違ってきます。

最後の集中力は見事だったものの、無失点で切り抜けたのは、新潟攻撃陣のミスに助けられた面も大きかったのです。

11.レジェンドの真骨頂

まず、映像で確認したことを書きます。2点目のシーンです。

それは、カズが中盤でボールを奪取したところから始まりました。

カズのパスがドウくんに渡り、野津田とカズ、3人によるカウンター。ドウくんが、力強いドリブルで前進します。

新潟の選手を3人引き付け、右サイドにスルーパスを送ったところに、走っていたのは、カズでした。

監督も絶賛するその落着きで、DFを一人躱してのシュートを決めてくれました。

リアルタイムで試合を観ていた私ですが、2点目は、青ちゃんだと思い込んでいました。

上がってきたのがカズだったとは、見えませんでした。

個人的には、半分はドウくんのゴールだったと思います。

しかし、監督も水沼さんも指摘した、カズの戦術眼が、得点を生み出したこともまた、間違いありません。

12.安堵

2点リードしてようやく、新潟の勢いが削がれてきて、広島も余裕を持って戦うことができるようになりました。

無論、新潟も諦めません。ゴールに迫るシーンも作ります。

しかし、最後の集中を切らさなかった広島が、無失点で試合を終わらせたのでした。

終盤には、皆川も途中出場。見せ場はありませんでしたが、いま彼ができることを必死でやっていたように、私には見えました。

彼も苦しんでいますが、短い時間ながら、久しぶりのピッチの感触を味わえたのは、良かったと思います。

13.笑えるのは勝ったからこそ

新潟を破ったことで、広島は、数字上「も」(笑)J1残留を確実なものとしました。

勝ち点も、早くも昨年を上回っています。

上に1チームいますが、残り9試合もあります。まだまだこれからです。

今節の試合、勝ったことに満足できる試合だったですが、中身は、くどいようですが、ほぼ新潟のものでした。

選手自身が「上手くいっていない」ことを意識して臨んだためか、却って、広島らしくない要素が多く現れてしまいました。

過ぎたるは猶及ばざるが如しで、「ここで負けてはならない!」という気持ちが強すぎたのではないでしょうか。

それでも、とにかく勝利を手にすることができたのは大きかった。

パスが合わないとか、こぼれ球を拾えなかったとか、改善点が出た試合でしたが、最後のギリギリのところでは、諦めずに集中して、しのぎ切ってくれました。

最低限の「やるべきこと」はやってくれた、ということです。

正直言って、よく勝てたな、と思います。でも、ここで勝利を得ることができたので、これから徐々にでも、チームはいい方向に進めるのではないでしょうか。

14.あとがき

松村静山が述べたという、「勝ちに不思議の勝ちあり。負けに不思議の負けなし。」という言葉。

Weblio辞書には、剣道用語として掲載されており、「道を守れば不思議に勝ち、道に背けば必ず負けるという心理術理の妙を教えている」とあります。

一方、野村監督の語録について、wikiquoteでは、「負けるときには、何の理由もなく負けるわけではなく、その試合中に何か負ける要素がある。勝ったときでも、何か負けに繋がる要素があった場合がある」という意味だとあります。

この記載が真に彼らの(特に野村氏の)意図するところであったかは、私には分かりません。しかし、これら2つのいずれとも、不思議なことに、この試合の広島を言い表しているように思えるんですね。

意図と異なるプレーを繰り返し、新潟に試合を支配されていて、失点の危機も数多かった試合でした。

勝ったから良かったものの、負けにつながる要素は沢山ありました。それが後者の意味。

しかし一方で、ギリギリの所で新潟にやらせなかった辺りは、最後まで諦めない心でしのぎ切るという、サンフレッチェの哲学を守り抜いた所為ではなかったか。前者のいう「道を守る」という部分を貫けたことが、結果を勝利に結び付けた理由だったかもしれません。

最後までお読み下さった皆様、ありがとうございました。