西川周作考 ~代表正GKを獲るために~

0.まえがき

西川周作が、日本代表で輝きを放ち切れないでいます。

現在、代表の第1GKである川島が安定感の面で不安視されてきている中、西川に正GKになってほしい、と期待する声は大きいと思います。

大分、広島、そして浦和で、守護神として君臨する西川が、しかしなぜか、代表の試合では、際立った成果を残せていません。

もちろん、準備段階でも試合でも、GKとしてやるべきことはやっているはずですが、代表の正位置を獲れるほどのアピールにまでは至っていないのが現状です。

西川が、川島や他のGKを凌駕し、代表正GKを獲るために、必要なことは何なのでしょうか。

1.(少しだけ)西川への想い

『今後、「浦和の西川」は応援できませんが、周作のことは引き続き応援していきます。代表の正GKを是非取ってほしいと思います。』

これは、西川が広島から浦和に移籍することが正式発表されたことを受けて、ある方がブログに書かれた記事に、私がコメントした文章の一部です。

事前の報道が先行する中、シーズン終了(=天皇杯決勝)までそのことに一切語らず、広島のために戦ってくれた西川を、私は責める気にはなれませんでした。無論、前の年にACLに置き忘れたものを一緒に取り返しに行って欲しかったけど、それはもう仕方ないこと、と割り切ることもできましたので。

そして、正GK云々と書いたことは、今も変わらずそう思っています。川島がどうこうとかではなく、西川の実力ならそれもきっと叶うものだろう、と今でも思っています。

西川への想いは、このくらいにしておきましょうか。

2.西川が浦和にもたらしたもの

さて、西川が浦和に移籍することが決まり、思ったことは他にもいくつかあるのですが、浦和に関して言うと、「この移籍で、浦和のディフェンスは劇的に良化する」と思いました。

まず、浦和の監督がミシャことミハイロ・ペトロヴィッチであり、人柄も戦術も熟知していました。もちろん、周作のスタイルとも合致しています。

また、浦和には、広島で共にプレーしたDFの槙野智章(*1)、森脇良太がレギュラーでいました。連携面での心配が要らないどころか、ほぼ組み立てられた状態、あとは微調整、というレベルでした。

そして、何よりも大きいと考えたのは、西川なら、ミシャに守備面で進言することがあり得るだろう、ということでした。

ミシャは、色々と批判もされますが、選手の進言を取り入れる度量と包容力がある、という美点を持っています。

西川の加入前と、移籍直後のシーズンを比べると一目瞭然、とにかく浦和の守備意識が格段に向上したのが分かると思います。

これはミシャ主導ではなく、西川の進言がミシャを動かしたのだ、と私は考えているのです。

(*1)槙野が海外に移籍したので、広島での在籍期間は1年間しか被っていませんが、その2010年は2人ともリーグ戦全試合に出場しています。

3.西川が持っているもの

具体的なサンプルはありません(探していない)が、西川の試合後のコメントなどを見たり聞いたりしていると、よく、「DFのおかげ」とか「守備が頑張ってくれたから」といった、チームメイトを立てる発言が出てきます。

こうした発言から私が考えるに、西川というGKは、仲間との連携やコミュニケーションを非常に重要視する選手、であると思います。

大分でJ1シーズン最少失点の達成に貢献(*2)したり、浦和での7試合連続無失点や年間完封試合数の記録更新など、数々の記録を残してきた西川ですが、その陰には、DFとの連携を構築し熟成させていく工程が必ず含まれていました。

別の観点で言うと、西川は、日本のGKとしては足元の技術が際立って上手い、という評価を受けていて、実際にそうなのですが、ディフェンスでパス回しに参加して相手をはがすためには、ただ単に技術があるだけでは足りません。それはやはり、味方との連携があってこそ成り立つことだと言えます。

サンフレッチェ広島のGK林卓人は、西川ほど足元は上手くなく、昨年は失点につながるパスミスを犯して、広島ファンからも非難を浴びることがありましたが、今年はそういうシーンはまだ見られず、パス回しにも安定して参加できている、と評価されています。

林の技術が上がったこともありましょうが、林とDF陣との連携・コミュニケーションが昨年よりも成熟されている、パスの出し手と受け手の関係性が増しているからこそ、向上の結果が目に見えているのだと思います。

例として広島を挙げさせてもらいましたが、浦和での西川を考えても、槙野や森脇だけでなく、那須や、ボランチの阿部などとの関係性が良くなければ上手くは回っていかないはずですから、そこは西川の能力が大きく反映されていることは間違いないと思います。

(*2)J1が18チームになってから作られた、2008年の記録ですが、歴代の最少でもあり、失点はわずか24。ただ、西川はシーズン途中にケガのため離脱し、出場は22試合に留まっています。

4.西川にとっての盲点

前項で、西川は連携を重要視する選手である、と書きました。少なくとも私は、そこは大事なポイントだと思いますし、評価もしています。

しかし、私はこのことが、実は西川が代表の正GKに届かない主原因だと考えています。

味方と連携を構築し高めていく作業には、当然、時間がかかります。

クラブチームという環境なら、チームメイトと長く時間を共有することができます。普段の練習で話し合えるので、試合で問題点が出ても、改善できる時間的余裕もあるでしょう。

特に西川は、クラブでは実力的に正GKであり、試合にも恒常的に出場できるので、PLAN-DO-SEEのサイクルを回しやすいのです。

しかし、代表という環境では、そこまで十分な時間を取ることができません。この度の東アジア杯を見ても分かるように、準備期間も短くなりがちです。

スポット的に集結し、すぐに離散するスケジュールの中、選手間の連携を深化させる作業は(クラブでの作業との比較で)なかなかに難しいものであろうと思うのです。

まして、西川は今は代表の第2GK、という立場なのです。残念ながら。

GKがどのような形で全体練習に参加するのか、私は知らないのですが、フィールドプレーヤーとの連携を取るという作業については、やはり正GKとの関係を優先的に強化するものと思います。

そう仮定すると、第2、第3のGKについて、そうした連携構築の作業は、代表の練習の中では二の次にせざるを得ません。

もちろん彼も、観察は怠っていないでしょう。でも、一緒にプレーしてみて分かる部分はやはり大きいと思われますからね…

彼自身はこんなことは考えていないでしょうが、私には、これが西川にとっての盲点のように思えるのです。

5.西川は進化しているのだろうか

実は、1項の冒頭で紹介した「あるブログへのコメント」で、私は、西川が浦和に移籍する理由として挙げた「挑戦」という言葉に納得していない旨を伝えています。

勝手知ったる監督、チームメイト、そして戦術がある、当時の浦和に移籍することが「挑戦」なのだろうか、と。

例えば、守備陣との連携を1から構築していかなければならない、そうしたチームに移籍するのでなければ、挑戦とは言えないのではないか、と思ったのです。

1年半以上経過した今、「浦和の守備力を著しく向上させた」点においては評価甲ですし、これが彼の言う「挑戦」の一つだったのかなあ、とも思っています。

しかし、浦和という環境下で「GKとしての能力」をアップさせること、それも彼のいう「挑戦」に含まれなければならない、とも思っていて、ならばその部分ではどう評価したらいいのか、ということなんですよね。

もし私が、その評価について問われたら、おそらく口ごもってしまうと思います。

浦和の試合をさほど観ていないので明確なことが言えない、という理由もありますが、広島時代とそんなに変わっていないんじゃないかなあ、という感じがしてしまうんですよね、どうしても。

要するに、現状維持。

現状を維持することも結構大変で、それは分かっているんですが…

6.西川に必要なもの

今の代表メンバーや候補と目されるGK達は、川島を除けば全員Jリーガーなので、Jリーグに限った話をしますが、「西川が総合力No.1のキーパーである」ということは、賛同して頂ける方は多いと思います。

足元の技術については既に書きましたが、フィードの正確さもトップクラスですし、その他のスキルについても、概ね70~80点ぐらいの得点を与えられるレベルなのではないでしょうか(*3)。

反面、「総合力は」という但し書きがついてしまうのも、彼の現状と言えましょう。

他のブログ等で、ハイボールの処理にやや難がある、ニアを抜かれて(失点して)しまう、などの評価がありました。

DF込みで、セットプレーの守備に弱点があるという傾向も見られます。

ここでまた、林卓人に登場してもらいますが、単純に西川と林を比較しても、ハイボールへの対応力(高さ)とショートストップの能力では、林が西川を上回っているように思います(有意差は無いでしょうが)。

全てのスキルが完璧な選手はいないはずなので、部門ごとの得手不得手はどうしてもあり、その部分を突いてどうこうと言うつもりはありません。

ただ、西川をしても、70~80点のところを90点、100点に上げていく必要はあります。私としてはそこを求めたいのです。

(*3)GKの経験がない私なので、技術的な評価は上手くできません。一般に西川について評価されている事柄を、自分なりに消化して書いています。

7.西川に本当に必要なもの

ここまで、西川周作というゴールキーパーの長所や弱点、彼に私が求めたいもの、などについて述べてきましたが、この記事も少々、長くなってしまいました。そろそろ、結論めいたことを書かなければなりません。

最後に、私が西川周作に最も必要と思うことを述べて、あとがきにつなげたいと思います。

西川には、「ゴールキーパーとしてのカリスマ性」が欲しい。私はそれが、今の彼に最も必要なものだと思いました。

かつて代表の守護神だった川口能活には、どんなシュートが来ても必ず止めてみせる、という自信と気迫を、周囲に感じさせていました。

彼のプレーにはムラもありましたが、時に神懸っているほどのスーパーセーブで、チームの窮地を救ってきました。

川口のライバルだった楢崎は、比較的、気迫を内に秘めるタイプのキーパーだという印象なのですが、とにかく安定感があったし、私などは、彼に任せておけば何とかしてくれそうな気がしたものです。

現在の川島についても、確かに不安定さは否めない(*4)のですが、やはり「最後は自分が止めるんだ」という思いが伝わってくるのです。

闘志を表に出せばいいというものでもないし、精神論を語るつもりもありません。

しかし、代表の正GKを奪い取るためには、ゴールを守る最後の砦として、シュートを狙う相手が怯むような、そんなオーラは必要ではないでしょうか。

例えば、ディフェンダーがシュートコースをある程度限定してくれれば、多少強烈なシュートが来ても、GKとしては守りやすいはずですよね。

ワザと意地の悪い言い方をしますが、そうした前提でファインセーブを見せても、それはキーパーがディフェンダーに守ってもらっているからできたことであって、半分以上はディフェンダーの手柄なんですよね。

そうではなくて、誰もが失点を覚悟する絶体絶命の危機に、決定的なシュートを止めてくれた、ゴールキーパーが独力で解決したと誰もが認めるような、そんなファインセーブが欲しいんです。

(代表の試合に限れば、川島にはそれがあった。だから正GKになれたという面もあると思います。)

広島でも、浦和でも、西川のそういう場面を、私は何度も観ています。代表戦での結果だけが足りていません。

東アジア杯で2試合、ピッチに立つことができたことを、西川自身、「いい経験をした」と語っているようです。

今後、代表の試合に出るチャンスが何度与えてもらえるか分からないのが現状ですが、次に出場の機会があったら、何とかアピールしてほしいものです。

(*4)川島の場合、西川とは逆で、味方との連携を構築するのが苦手なのかもしれません。熱くなりやすい印象もありますし、その辺りが影響してのことではないかと推測します。

8.あとがき

私がフォローさせて頂いているあるブログで、このような記載がありました。(そのまま載せるのは控えて、要約します。)

『失点をGK西川の力で防ぐ、それで試合を勝利や引き分けにする、ということが代表の試合で2つ3つと続けば、すぐに西川は代表の正GKになれると思う。』

実は、この文章に触発されて、この記事を書きました。

実際の所、「確かにそうなんだよなあ」と思ったのです。結論が似ているのはそのためで、書き手として、読み手にどう取られるかというのが不安ではあります(苦笑)。

しかしながら、西川についてはかねてから思っていたこともあったので、これをいい機会だと捉えて、1つの記事にまとめてみました。

なお、プロフィール欄には書いてありますが、当ブログは基本、敬称略でお送りしています。

読み返してみて少し気になったので、念のためここにも記しておきます。

9.最後に

移籍直前の天皇杯準決勝、FC東京とのPK戦で、西川が見せた気迫を、私は知っています。

あの時の西川にはオーラがありました。「どんなシュートが来ても絶対に止める!」と、体全体で叫んでいました。

今でも西川は、あの時の感覚を憶えているでしょう。

日本トップクラスの実力があることは間違いありません。西川ならきっとやってくれると、私は信じます。

最後までお読み下さった皆様、ありがとうございました。