取り戻したもの、足りなかったもの ~C大阪戦レビュー~

0.まえがき

20日未明に発生した土砂災害により、当日の天皇杯が延期されたため、災害以降で初の公式戦となった広島-C大阪戦。

スタジアム前では募金活動が行われ、青山らが呼びかけをしていたようです。

スカイ・A sports+ HD チャンネルでの中継中、入場者数の発表が聞こえましたが、何と、21102名の入場者だとのこと。

夏休み最後のホームゲーム(リーグ戦)だったから、だけでなく、被災した方々を応援する気持ちを持った来場者が多くいらしたのだろう、と思い、感激しました。

タダ券が無くて行かない、と書いた自分が、かなり恥ずかしかったのです。

1.新戦力

故障や体調不良で離脱する選手が引きも切りませんが、今週は、直樹が腹筋損傷により離脱というニュースが飛び込んできました。

だからかどうかは分かりませんが、皆川が初めてスタメンに名を連ねることになりました。

途中出場で活躍を見せ、周囲の期待度が高まっているルーキーが、どのような働きを見せるか、注目した方は多かったでしょう。

他では、林とミキッチがスタメンに復帰、寿人もベンチ入りと、心強いベテラン勢が戻ってきてくれました。

対するセレッソは、新加入のカカウが早速のスタメン入りで、フォルランとのそろい踏みを果たしました。

来日して10日も経っていませんが、彼もまた、セレッソサポーターの期待を背負っての初登場となりました。注目度大です。

ただ、山口蛍が離脱中である上に、南野が出場停止により不在。さらに、天皇杯から中2日というスケジュール面での不利と、不安要素も数多く、苦しい状況ではありました。

2.「らしさ」を見せた立ち上がり

出場選手たちによる、センターサークルを囲んでの黙祷のあと、試合が開始されました。

今日の広島は、立ち上がりから、中盤で圧力をかけてボールを奪取することができていました。

要注意のカカウに対しても、3人で囲んで奪った場面がありましたね。

また、後方でのボール回しにも余裕が見られました。

リーグ戦では17節以来の出場となった林も、無難にボールをさばいていました。

ただ、ボールを奪ってから、または、後方でパス回しして抜け出した後に、攻撃のスピードが上がらない点は気になりました。

特に、イージーパスミスが目立ちました。

3.優勢に進めた前半

両者無得点のまま、前半が終了しました。

前半を通して、中盤が狭く、両チームとも決定的なエリアまでは進めませんでした。

そんな中、皆川のプレーぶりは頼もしかった。ボールが収まった時、相手にやられることがほとんど無かったように思われました。

ここまでやれるとは、嬉しかった。

私は、「前半は広島のペース。シュートまではなかなかいかなかったけれども、このペースなら、後半はスタミナ勝ちできそうだ」と思っていたのですが…

4.リズム感

後半のアタマから、宮原に代えて塩ちゃんを投入した広島。

(「後半アタマから…」とメモっていたら、実況が全く同じ言葉を話し始めたので、少し笑ってしまいました。)

ここからさらにギアを上げて攻勢を強めるのかな、と思って観ていたのですが、ディフェンスラインからのオーバーラップはほとんど見られず、前半とのリズムの変化はありませんでした。

一方のセレッソの方が、後半に入ってパスを回せるようになり、ペースを握り始めました。

見ると、広島の2ラインの間にセレッソの選手が入り込み、そこにパスを当てて捌く、というリズムができていました。

おそらく、選手間の距離感も良化していたのでしょう。

セレッソの攻撃が、流れをつかみました。

広島のディフェンスが粘り強く対処して、最後のところはやらせていなかったので、大きなピンチは少なかったのですが。

5.カカウの評価

後半29分、カカウがoutしました。

前半から、彼の動き自体は良さそうでした。

コンビネーションの問題か、彼を使う周りの動きが足りず、前半の間は、脅威にはなりませんでした。

しかし、後半に入り、フォルランとの関係が良くなり、互いをうまく使う場面がいくつか見られるようになると、徐々に能力の片鱗を見せ始めました。

今後、コンディションが上がり、コンビが習熟してくれば、ファンの期待通りの活躍をしてくれるのではないか。

そう予感させてくれる、今日の出来だったと思います。

6.忍従の時間

後半22分、吉野の投入で、ほとんどパスオンリーだったセレッソの攻撃に、ドリブルというアクセントが付きました。

彼の積極性ある仕掛けと、パスワークのコンビネーションが活き、その後は、セレッソが試合をほぼ支配することとなりました。

そんな中でも、広島の守備自体は堅固で、決定的なシーンは作らせず、無失点のまま、試合を終わらせることができました。

ただ、数少ないカウンターのチャンスも、セレッソの4バックの対応に合い、得点を奪うこともできませんでした。

結局、第21節の試合では唯一、スコアレスドローに終わりました。

7.取り戻した守備の誇り

横浜FM戦の逆転負けに端を発し、鹿島戦の大差負けで沸点に達した、守備への不安。

それが、鳥栖戦のゼロ封勝ち、浦和戦の健闘を経て、この試合で、ついに払拭されたと言っていいでしょう。

今日の広島の守備は、ディフェンスラインでガッチリ受け止めるというよりも、中盤からプレッシャーをかけて奪っていく意図が感じられました。

相手がパス中心できたこともありますが、コースを限定して網に掛ける、パスコースを塞ぐ、などの作業がよくできていました。

この守備ができれば、少なくとも、勝ち点1を拾う戦いは出来ます。

J1残留という第1の目標に向けて、非常に大きいことだと思います。

8.欠乏症

一方の攻撃面ですが、こちらはもう少し時間がかかりそうですね…

浦和戦の感想で、後方からの押し上げ、縦の揺さぶり、サイドと中央との連携、といった要素を挙げてみたのですが、この試合でも、これらはあまり表現されていないようでした。

特に、縦の関係で打開する場面はほとんどなかったと思います。

もっとも、相手の動きも考慮しなければなりませんが。

セレッソの攻撃陣がバックラインにまで圧をかけてきたので、パスでかいくぐった後に、DF陣がオーバーラップできるかというと、物理的に難しい。

サイドからの攻撃も、セレッソが4バックで対処して良く守っていましたから。

そうなると、吉田安孝氏が解説で述べておられた「運動量の不足」、これがクローズアップされてきます。

今日なども、広島が結果的に中6日で臨めたのに対し、セレッソは中2日、しかも、扇原や山下など、GKを含むスタメン5名がフル出場したばかり、という状況でした。

それでも、後半は運動量で負けてしまっていました。

蒸し暑い気候、試合の順延が続いたり、土砂災害に影響を受けた選手もいる、という中で、コンディション調整が難しいのは重々承知していますが、それを差し引いても、やはり運動量を確保しなければ、相手を凌駕することは出来ないと思います。

監督も、口を酸っぱくして言っているんでしょうけど…

9.皆川の使い方を考える

さて、皆川の90分間のプレーぶりは、今日の収穫でした。

何と言っても、ポストプレーの確実性には目をみはりました。

また、裏を突く動きも見せていたようですし、広島の戦術に見事にアジャストしてみせました。

ただ、その皆川を使う方の動きに課題があることも露呈しましたね。

試合を観ていて、どうもシャドーの2人と皆川との絡みがいま一つだなあ、と思っていたんですよね。

そしたら、J’s GOAL に載ったカシッチへのインタビューで、聞き手が「皆川と周囲との距離感が開いていた感じがした」と述べておられて、なるほどなあ、と納得しました。

結局、皆川がボールを受けた時のサポートが足りない、とか、崩しに利用する動きが少ない、といったところが、決定的なチャンスを作れない原因なんでしょう。

青ちゃん不在により寿人を使い辛い状況にある中で、皆川をいかにうまく使い切るかは重要です。

「皆川の落としを、シャドーが前を向いて受け、サイドに展開する」だけでなく、例えば、「皆川がシャドーに落とした後、縦に動いて裏を突き、シャドーが球を送る」とか、「皆川がキープしている横を、シャドーが縦にすり抜けて、皆川が裏へパスを流す」とか、そういうコンビネーションができてくれば、相手にもっと脅威を与えることができます。

吉田氏が、セレッソについて「カカウとのコンビを、試合を重ねながら作っていくしかない(要旨)」と述べておられたのですが、同じことが皆川周りにも当てはまると思います。

10.被災地にパワーを送れたか

今回の試合、災害発生を受けて、勝敗とは別に、被災者へエールを送る意味合いがありました。

精一杯のプレーを見せることで、何とか元気や勇気を送れないか、と、選手たちは考え、実践しようとしました。

その辺り、広島がシュート3本に抑え込まれてしまったことで、不満を持っている人が多いように見受けられます。

「今日こそは勝ってくれ!」との期待が裏切られたと感じているのかもしれません。

でも、私は、試合そのものは非常に面白かったし、お互いに相手に自由にやらせないことを徹底してやっていたし、自分たちの長所を出していこうという気持ちは十分に感じられたので、被災地の方々にも想いは伝わったと思います。

(周作や陽介らが、募金活動に動いてくれたそうです。有難いことです。)

11.あとがき

最近は、レビューを書くために、メモを取りながら試合を観ているのですが、そうすると、メモしたこと全てを記事に載せたくなってしまうんですよね(笑)。

最後までお読み下さった皆様、ありがとうございました。